住民の安全を後回しにした福島第一原発「警戒区域」解除の無責任

東電の案では、自宅の土地については事故発生前の価格の一定割合の賠償にとどまる。建物についても、事故発生前の固定資産税評価額などを基礎にすると記述されている。これでは、新天地で新たに自宅を設けることは困難だ。“加害者”である東電に指針策定を委ねること自体がおかしなことだが、政府は自ら指針を示すことに及び腰だ。

小高区岡田に自宅を持つ國分富夫さん(67)は現在、会津若松市内で一軒家を借りて妻や息子夫婦、孫など7人で避難生活を送る。小高にある國分さんの自宅周辺の放射線量は郡山市と同レベルの0・6マイクロシーベルト/時前後だが、300メートル先の墓の近辺では放射線量は2~3マイクロシーベルト/時に達している。

國分さんは、「将来も自宅に戻るつもりはない」と話す。

「国による除染計画はまったくの絵に描いた餅で、何年先に終わるのかもわからない。いったん除染が終わったとしても、再び線量が上がらない保証もない。それに、いつ大爆発を起こすかもしれない原発の近くで生活することには恐怖を感じる」(國分さん)。

「もはや故郷での生活は不可能」と考える國分さんは、県内の各地や宮城県に住む小高区からの避難者など約15人の住民とともに、6月にも家屋や財産の賠償を集団で請求する考えだ。「私たちの賠償請求が突破口となって、あちこちで生活再建のための賠償請求が起こる可能性が高い」と國分さんは予想する。

いつ終わるともしれない避難生活を強いられてきた原発事故の被災者は、我慢の限界に近づいている。

(岡田広行 =週刊東洋経済2012年5月26日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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