住民の足のはずが…「ライドシェアの思わぬ効果」《役場も驚いた"普通の町民"のおもてなし力》人口6000人を割った小さなまちに起きた変化
「食事ができるところが少なくて」とぼやいたときに、「夜に営業しているのはあそこと、ここと、あとうちね。インスタやってないので観光客はほとんど来ないけどカフェで簡単なトーストセットを出しているよ」と答えたドライバーは、スナックやカフェの経営、他にも何刀流なのか分からないほど家族で多くの事業を手掛けていた。
目の前に広がる森を指して、今年の紅葉の状況を説明してくれたドライバーもいた。山道で「ここが町で一番標高が高いところ。450メートル。写真撮るなら停車しましょうか」と減速してくれたときには、「何の変哲もない道路も、案内する人がいれば観光スポットになるんだ」と心底感動した。
町民ドライバーは町外から来た人にとって、疑問や困りごとを最初に話す相手であり、町のリアルを包み隠さず教えてくれる住民だった。「花籠祭りに行ってみるといいよ」と教えてくれたドライバーは「人が減って花を出せる集落は減ったけれども」と付け加えた。
「人口が先月6000人を割った」
「駅前のスーパーが閉店して、町民の間にロスが広がっている」
「冬は雪が積もってとても寒い、夏も思ったより涼しくない」
毎日乗って、ドライバーとそんな会話をしているだけで町の輪郭がくっきりしていき、何人かとは顔見知りになった。
長谷さんは「ガイドさんを町内全域に張り巡らせて、内と外をつないでもらっているようなものだと、『のりりん』の新たな価値に気づかされました」と語る。
町は配車アプリの構築や短期間の乗り放題チケットなど町外利用者向けの施策の検討を進める。昨年後半から外国人観光客や技能実習生の利用者が目に見えて増えており、多言語化も急ぐ。
元自衛官でドライバーになった人も
筆者にとって「のりりん」を初めて利用したときのドライバー、赤堀昌章さん(61)の運転には滞在中、3回お世話になった。次第に世間話をするようになり、赤堀さんが2年前まで陸上自衛官だったと知った。
赤堀さんは高校卒業後に陸上自衛隊に入隊して幹部の二等陸尉を務め、59歳で退官した翌日、故郷の智頭町に戻って「のりりん」のコールセンターで働き始めたという。
「自衛官を40年以上やってきたから、全然違う仕事をしてみたかった。自衛隊には再就職を支援する部署もあるけど、私は自力でこの仕事を見つけたんですよ」(赤堀さん)
コールセンターの職員は会計年度任用職員で待遇が安定していたが、今年4月にパートに切り替え、コールセンターとドライバーの二刀流に転じた。
「コールセンターにずっと詰めているのが性に合わなくて。ドライバーはお客さんと直に接して、ありがとうと言われることが多くてやりがいがある」とはにかんだ。
筆者は智頭町に来た当初、「知らない人の車に乗るなんて」と利用を躊躇していたが、いつの間にかドライバーとの交流が楽しみになっていた。中には連絡先を交換した人もいて、メールで再訪を促されるまでになっている。
智頭町に滞在した2週間、20~30代のリピーター数人と会い驚いた。「のりりん」のドライバーたちも「こんな何もない町なのに何度か来ている人がいる」と不思議がっていた。その理由がよく分かった気がする。
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