住民の足のはずが…「ライドシェアの思わぬ効果」《役場も驚いた"普通の町民"のおもてなし力》人口6000人を割った小さなまちに起きた変化
筆者も「遊ぶ広報」で智頭町を訪問した1人だ。「のりりん」の1回の利用料は500円だが、観光協会の人に勧められて1カ月5000円の定期を買った。
車の運転が苦手なのに自然豊かなエリアが好きで、何度か二拠点居住のプロジェクトに参加したが、「車なしで動きたい」と言うと、「それは厳しいです」と即答されてばかりだった。
現地では本数の少ない列車やバスを乗り継いで、2〜3キロの距離なら歩いて移動する。行動範囲は限られるが、それも仕方ないと受け入れていた。
町民は「のりりん」を「不便」と言うが、それは自家用車と比較しての話であって、車を持たない旅行者にとっては「神車」だった。
智頭町の宿は数部屋しかない小規模な施設ばかりで、しかも助産院併設だったり廃校転用だったりで、智頭中心部から離れたエリアに点在している。しかし全てが「のりりん」の乗降ポイントになっており、電話一本で送迎してくれる。
筆者が智頭町に入った時は首都圏から来た4人が「遊ぶ広報」で滞在しており、連絡を取り合って1人が泊まっているお試し住宅に集合した。それぞれ町内の違う地区に宿泊していたが、全員が「のりりん」を使って簡単に集まれた。
4人のうち2人はこの1年で2回目の智頭町訪問だった。「『のりりん』があるので来やすい」と声をそろえていた。
山奥の飲食店でランチを取り「のりりん」を呼ぶと、やってきたドライバーが「ここは人が住んでないから、このポイントを利用するのは観光客だけだよ」と話した。
智頭町によると、最初から観光利用を想定し、町民が行かないほぼ無人の集落や山の中にある飲食店も乗降スポットに入れたという。乗降ポイントの数は町営バスのバス停の4倍。
車幅が狭くて町営バスが入れなかった観光スポットも、「のりりん」で気軽に行ける場所になった。
ドライバーだけど「ガイド」の役割も
のりりんが旅行者にもたらしたのは利便性だけではない。長谷さんは「『遊ぶ広報』の参加者から、「のりりん」のドライバーがルート途中にある(観光スポットの)恋山形駅に立ち寄ってくれて感激したと聞き、ガイドみたいなことをしているのだと驚きました」と話す。
筆者も2週間、ほぼ毎日「のりりん」を利用してさまざまなドライバーと話をした。最もよく聞かれたのが、「2週間もここにいて暇でしょ」「智頭はどうですか?」という、興味とも心配ともつかない問いだった。
その時々の気分で答えると、ドライバーが各自のバッググラウンドに基づいて町情報を教えてくれる。
「今月は集落ごとに花籠祭りがあって、写真映えするから行ってみたらいい。具体的な日程は役場に聞いてごらん」と教えてくれたドライバーは、おそらく元町職員だ。


















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