バスもタクシーも撤退した過疎の町、町内の移動を守るのは「AI乗合タクシー」。役場職員も時には運転手に。続ける住民との対話、見出す活路
長谷さんは新卒以来20年勤めた鳥取市内の百貨店を19年に退職し、翌20年に智頭町職員に転じた。40代半ばで民から官に転職し、「前職でやってきたことが全く役に立たず、だいぶしんどかった」と振り返る。
コールセンターはともかく、ドライバーとなるとさらに前職の経験が役に立たないし、思っていた転職とも違ったのではと尋ねると、「それが外に出て背中越しにでも直接対話することで町の人との距離が縮まるし、充実感を得られました」と返ってきた。
「のりりんが始まった当初は、乗車したお年寄りの方に『乗っといて文句を言うのも悪いけど』とのりりんへの不満や不安の声をよくいただきました。直接話すことでだんだん理解してもらえるのを感じました」
「『あんた見ない顔だね』と言われて実は役場で働いていますと答えると、『ならちょっと聞いてほしいことがある』と相談を受けることもあります。移動行政というか、こちらから出ていくことで触れられるものもあると強く感じました」
のりりんのドライバーには4時間勤務で3500円。7時間だと7000円の報酬が支払われる。乗車ごとのインセンティブが加算されるが、ガソリン代は自己負担だ。燃料費の高騰に加え、利用者の増加でドライバーへの負担も増している。
長谷さんは「運行開始時は乗務が入らない時間も多く、その間は自由にしてもらっていたのですが、最近は忙しくなっているのでインセンティブを見直したりしています」と話し、「皆さんお金のためというより、町のためという思いで力を貸してくれている」と感謝した。
町民は使わないが……
駅前にある観光協会では、コーヒーを飲みながら「のりりん」を待っているお年寄りを毎日のように見かけた。観光協会の職員は「2年半経ってだいぶ認知されてきた」と語る。
一方で、筆者が「『のりりん』で町内を移動している」と言うと、現役世代の町民から「予約がめんどくさいんでしょう」「使いにくいんだってね」とたびたび言われた。ただ、そういう人たちは必ず「私は一度も使ったことないけど」と付け加えた。
一家に複数の車があるのが当たり前の智頭町では、「のりりん」の利用者が高齢者と中高生に限られているため、実際の使い勝手は知られていない。乗車あたり500円の価格も「高い」との声が多い。
智頭町企画課によると、「のりりん」の利用者は右肩上がりで増え、町営バスに比べると赤字が縮小しているものの、「コストに見合う収入が得られているかは微妙。町の公共交通は赤字が当たり前という風潮に甘んじず、どうにか自走していきたいという思いはある」(同町企画課)と課題は残り続けている。
「のりりん」のメリットを感じているのは、町の人よりも車を持たずにやってくる町外の人かもしれない。智頭町も最近になって、「のりりん」が観光客に刺さっていることに気づいたという。
後編に続きます。
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