バスもタクシーも撤退した過疎の町、町内の移動を守るのは「AI乗合タクシー」。役場職員も時には運転手に。続ける住民との対話、見出す活路
車なしで町に来た筆者は「のりりん」の存在は知っていたが、使い勝手がよく分からないし、「知らない人の車に乗る」ことへの抵抗感もあり、極力列車を使うつもりだった。
しかし初っ端から都会の人間の考えの甘さを思い知らされ、観光協会の職員に勧められて「のりりん」の1カ月定期券を購入した。利用してみると便利なことこのうえなく、路線バスの穴を埋めてくれるどころではない。詳細を知りたくて、飛び込みで智頭町役場に取材した。
「町民による共助交通」という仕組み
町民による共助交通、といっても多くの人にはピンとこないだろうが、ざっくり言えば“町民がハンドルを握るUber”だ。
「のりりん」は年末年始を除く毎日午前6時から午後7時まで、智頭町内約270カ所の乗降ポイント間を1回500円(乗り合いは400円、定期券あり)で輸送する。
全世帯に配られているIP端末かコールセンターを通じて配車を依頼すると、AIがドライバーやルートを割り当てる。AI任せだと季節や車幅によっては通れない道をルートに入れたり、ドライバーの負担を考慮せずに配車をすることがあるため、コールセンターの職員が最終調整して配車を確定する。
輸送を担当するのは国が認定する講習を修了した25人(25年11月時点)の町民ドライバー。智頭町によると常時5人前後のドライバーが稼働している。
配車依頼が集中する朝と夕方は30分以上の待ち時間が発生することもあるが、筆者が利用した時は配車依頼後10~20分ほどでドライバーが来てくれた。予定が分かっていれば事前予約もできる。
町営バスのバス停が70カ所だったのに対し、「のりりん」の乗降ポイントはその4倍。智頭駅から車で30分以上かかる飲食店や、山道にポツンとあるパン屋など、町に来る前は行けないと諦めていた場所も気軽に訪れることができた。


















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