バスもタクシーも撤退した過疎の町、町内の移動を守るのは「AI乗合タクシー」。役場職員も時には運転手に。続ける住民との対話、見出す活路
「先週金曜日、『のりりん』の1日の利用者が初めて200人を突破したんです」
取材した10月下旬、智頭町企画課の長谷龍太郎主任(49)は声を弾ませた。月間乗客数は昨年10月に初めて3000人台に乗り、その後も右肩上がり。今年10月は4287人と4000人を突破した。町営バスの22年度の利用者が1万721人だったので、3~4倍に増えた計算になる。
町内の93%を森林が占め、林業を基幹産業としてきた智頭町は、人口減と高齢化が急ピッチで進む過疎地域だ。人口は10年に8000人、17年に7000人を割り今年10月1日時点で5992人。高齢化率は46%で全国平均(29.3%)を大きく上回る。
町営バスの運行は早くから限界を迎えていた。乗務員の確保が困難な上にバスの乗客が高齢者や中高生に限られるため運行効率が低く赤字を垂れ流す。町内を1台だけ走っていたタクシーも撤退を望んでいた。
「町営バスの廃止前に町職員が乗車して需要調査をしたのですが、始発から終点まで乗客は私1人ということもありました」(長谷さん)
とはいえ、車を持たない町民が病院や学校に行くための公共交通は死守しなければならない。
智頭町はコロナ禍前から町民の協力を前提とした共助交通の導入の検討を進め、23年3月末をもって町営バスをスクールバスに転換し、一般の輸送は「のりりん」に切り替えることを決めた。タクシー会社も同時に撤退することになった。
役場の課長も運転
「のりりん」への切り替えにあたって、職員総出で88の集落に出向き、集落ごとに2回の説明会を行ったが、バスがなくなることに対する住民の衝撃や反発はとてつもなく大きく「外に出るなと言うのか」と詰め寄られたり怒号が飛ぶこともあったという。
1日に数本しか運行がないバスに比べて「のりりん」の方が便利なはずだが、まだ形になっていないサービスのメリットは伝わりにくい。その結果、「のりりん」について町民の広い理解を得られないまま、町営バスは廃止されてしまった。
「のりりん」を予約するコールセンターは、当初役場の企画課に設置され、職員が午前5時半から業務にあたった。半年後に独立運営に移行し、専任スタッフが配置されているが、今でも企画課の職員が時々シフトに入っている。
役場の職員はコールセンターのみならず、人手が足りないときはのりりんのドライバーも担う。
「企画課は課長以下全員が認定講習を受講し、ドライバーとして業務できる体制になっています」(長谷さん)
平日は業務の一環としてタクシー会社から譲り受けた車両を使い、週末は副業扱いで自分の車を使っているという。
長谷さんは直近だと10月の週末に副業としてドライバーのシフトに入った。
「その日は町内の運動会の集中日で、ドライバーに登録している町民はそっちに駆り出されてしまうものだから。町外に住む私が稼働することになりました」


















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