この寓話では、目の不自由な人は誰もゾウのことがわからないが、自分の考えを正しいと確信し、その考えを押し通している。
言わんとすることは、あるテーマに関してどれだけ確信をもって自分の意見を主張しても、反対の意見をもっている人も自分が正しいと信じているということだ。
真実は誰のものでもない。
科学の世界では、この寓話と似たたとえが、肉眼で確認した、あるいは特定の分野の専門家の手法で確認した真実とされるものを検証するときに使われる。
たとえば、1932年にノーベル物理学賞を受賞し、量子力学のパイオニアと考えられているヴェルナー・ハイゼンベルクは、次のように警告した。
「測定用の装置は観測者がつくっている。私たちが観測するものは自然そのものではなく、私たちの研究方法にさらされた自然であるということを、肝に銘じておかなければならない」
通常、ある科学の分野が問題に直面すると、さまざまな科学者のグループがいろいろな仮説を主張するが、どの仮説が正しいか誰も説明できない。科学に多大な貢献をし、歴史に名を残すような人は、仮説間の矛盾を取り除いて、ひとつの理論への統合に成功している。
ゾウの寓話から学ぶ3つのこと
科学の分野に限らず、ゾウの寓話は次の3つの方法で私たちの生活に生かすことができる。
①真実への道
・真実に近づくには、ひとつの意見だけを信用してはならない。それは自分の意見にも当てはまる。多様な可能性を受け入れて、一見すると矛盾する考えを組み合わせることが必要になる
・つねに他人の意見に心を開き、その知識を利用できれば、真実の解釈を広げられる
②コミュニケーションとコラボレーション
・他人が間違っていると決めてかかってはならない。他人の立場になって、自分のほうが間違っているかもしれないと考えてみよう
・『四つの約束』(コスモス・ライブラリー)の著者であるドン・ミゲル・ルイスが言うように、他人が悪意をもっていると決めてかかってはならない
・他人との対話によって、より完全で、より包括的な見方ができるようになる
③部分と全体
・何かを知ることは、その事柄を完全に理解することではない。寓話に出てくる目の見えない人のように、真実の一部分しか把握していないこともよくある
・ある問題について、多くの側面と多くの視点があると知ると、その問題の解決に近づく
最後に、この寓話を補強するアリストテレスの言葉を引用してみよう。
「全体は各部分の総和よりも重要である」
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Hector Garcia
スペイン出身。CERN(欧州原子核研究機構)のエンジニアを経て2004年より日本在住。ブログ「kirainet.com」は月間100万ビューを超え、日本文化や生き方への独自の洞察で国際的に知られる。フランセスク・ミラージェスとの共著『Ikigai: 長寿で幸せな日本人の秘訣』は世界で 100万部以上のベストセラー となり、40カ国以上で翻訳出版された。
フランセスク・ミラージェス
作家・ジャーナリスト・セラピスト
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Francesc Miralles
バルセロナ出身。心理学や精神性をテーマにした著作を数多く執筆し、各国語に翻訳されている。エクトル・ガルシアとともに執筆した代表作のひとつ『Ikigai』は、世界で 300万部以上を超えるベストセラーとなり、現代人の生き方に大きな影響を与えた。
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すぎた まこと / Makoto Sugita
日本大学通信教育部文理学部卒業。訳書に『クジラと話す方法』(柏書房)、『世界滅亡国家史』(サンマーク出版)、『武器化する世界』(原書房)、『世界は「見えない境界線」でできている』(共訳、小社刊)、『エッセンシャル仏教』(共訳、みすず書房)などがある。
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