「チクったら殺すぞ」万引き常習犯の中学3年生男子がついに補導!"高校合格"取り消しを恐れ号泣する末路 『子供部屋同盟』5章③

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万「えぇ、同盟の臨時執行部員として、あなたが成敗Dをやるのです。その様子は、成敗Bと共に子供テレビで放映します。もちろん嫌なら断ってもらってけっこうですよ。なにせあなたは読書好きの貧弱な少年で、平手打ちされたくらいで泣きべそかく弱虫ですからね。成敗Dができないなら、こっちも成敗Bをやりません。案件は否決にて終了です」

浩一は柳台三丁目公園からの帰り道を思い出す。どこも痛くもないのに、子供みたいにめそめそと泣いていた自分を思い出して奥歯を噛む。

42「分かりました、僕が成敗Dを執行します」

万「じゃ、執行に必要なアイテムを発送しますね。受け取り手段は追って指示します。弥太郎君が成敗B、42番さんが成敗D。ふむふむ、これなら面白くなりそうですね」

翌日、子供部屋同盟から“指示書”というファイルが送られてきた。ファイルにはテキストと一緒に、グーグルマップのスクショ画像が入っている。グーグルマップのピンの場所に、執行に必要なアイテムがあるという。家から徒歩五分ほどの距離だった。

──三つ目の青い蓋を開けるベシ。

松山ハイツの青いボックス

指示の意味は分からないが、ひとまずスマホを片手にピンの場所へ向かう。

ピンの場所には、松山ハイツという木造アパートが建っていた。アパートの住人からアイテムを受け取るということだろうか。でも三つ目の青い蓋とは? よく分からないままに、松山ハイツの通路を歩いてみる。

人の気配はない。そもそも入居者はいるのだろうか。と、建物裏手の地面に、四つの青い蓋を見つけた。水道メーターが入っている青いボックスだ。

手前から三つ目の蓋を開けると、中には真新しい十センチほどの桐箱が入っていた。その桐箱をポケットへ入れると、辺りを見回したのちに小走りで松山ハイツから立ち去った。

帰宅後、自室で箱を開封する。箱の中には、ポリ袋に入れられた画鋲が五個と、ボタン型の小型カメラが入っていた。

指示書を参考に、学生服のボタンの一つを小型カメラへ取り替える。その学生服を着て、姿見の前に立ってみる。誰がどう見ても、ボタンがカメラになっているとは気づかないだろう。

さらに指示書に従って、スマホに“子供アプリ”をDLした。子供アプリで、小型カメラのオンオフができるという。指示書には上級生六人の個人情報や、執行日の大まかなスケジュールも記されていた。

──上級生の一人に取り付けたイケナイ端末によれば、次回は六月十五日に万引きが行なわれるナリ。

──同日午後五時半より、42番は北中学校の裏手にある児童公園で待機のうえ、子供テレビをスマホで視聴セヨ。

──弥太郎君が成敗Bの完遂を宣言したら、すぐさま成敗Dを実行に移すベシ。

高橋 弘希 小説家

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たかはし ひろき / Hiroki Takahashi

小説家。青森県十和田市生まれ。2014年、『指の骨』で第46回新潮新人賞を受賞。2017年、『日曜日の人々(サンデー・ピープル)』で第39回野間文芸新人賞を受賞。2018年、『送り火』で第159回芥川賞を受賞。他の作品に『朝顔の日』『スイミングスクール』『高橋弘希の徒然日記』『音楽が鳴りやんだら』などがある。

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