
直人が「あの女」に求めるもの
その晩、直人は池袋のラブホテル“ラプソディ”六階の603号室の洗面所に立っていた。
事前に通販で、ウィッグと付け髭と伊達眼鏡を購入してある。そのすべてを身に着けて、鏡の前に立つ。鏡には、普段の自分とは似ても似つかぬ見知らぬ男が立っている。
時計を見ると、午後九時前──、すでに池袋ミルクセーキには電話をしてある。
──ユリナちゃんを六十分コースでお願いします。
直人が最も欲しいのは、金ではない。加藤清美の謝罪だ。ラブホテルの個室で二人きりの状況で正体を明かし、奴を強請るのだ。裁判では負けたが、私と清美だけが知っている真実がある。その真実が、若林が言うところの清美の弱みだ。




















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