「博士課程=人生終了」という残酷な現実、日本の"科学立国"を揺るがす《文部科学行政》の致命的欠陥

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博士課程入学者が減少している最大の理由は、「博士課程を出ても職がない」という深刻な問題だ。SNSなどでは「博士課程 人生終了」「博士卒は就職氷河期」「博士課程へ来てはいけない!すぐ戻れ!」といった投稿が飛び交っており、若者の博士課程進学意欲に冷や水を浴びせている。

博士課程での苦労は、研究面のものというよりも金銭面での苦労であり、進路が決まらない不安という生活上の問題なのだ。

欧米では、博士課程修了者には企業の研究職やコンサルティング、行政分野など多様な就職先がある。それに対して日本では、依然として大学・公的研究機関への就職に偏っている。

しかも、ポストが不足しているため、構造的ミスマッチが解消されないまま残ってしまう。基礎研究・先端研究を担う博士人材への需要が構造的に少なく、待遇も改善しないため、若い世代が博士課程を避けることが合理的な選択になってしまっている。

この背景には、1990年代以降の大学教員ポストの削減、国立大学法人運営費交付金の減少、企業の研究投資の頭打ちなどが重なっている。

文科省「科学の再興」戦略の成否を占う

こうした危機的状況を受けて、文部科学省は11月18日、「科学の再興」に関する有識者会議の提言を公表した。そこでは、次のような野心的な30年度までの目標値を掲げている。

・日本人研究者の海外派遣:累計3万人(23年度実績3623人)
・博士課程入学者・博士号取得者数:2万人(20年度取得者実績1万5564人)
・挑戦的研究課題の採択件数:2倍(24年度6500件程度)
・AI関連論文数の割合:世界5位(24年10位)

これらは、研究人材の量的・質的両面にわたる強化を目的としたものであり、方向としては正しい。しかし問題は、はたしてこれを実現できるかどうかだ。

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