このように米ロの和平案には、ウクライナにとって多くの懸念すべき問題点が幾つも含まれている。当初案を巡りアメリカと協議を始めるに当たってゼレンスキー氏は「国家の尊厳を失うか、主要なパートナーを失うか」の選択を迫られていると悲壮な覚悟を吐露した。トランプ政権の要求を飲まなければ、アメリカ軍は武器や偵察情報の提供を停止するとホワイトハウスから警告されていたからだ。
ウクライナの「公正で持続的な平和」原則とは
プーチン政権の主張を受け入れてでも戦争状態の終結という結果を優先させ、和平を急いでいるトランプ政権とは対照的に、ウクライナが目指しているのは「公正で持続的な平和」という原則だ。これは何を意味するのか。
この原則は、ウクライナの主権と領土を保全すると同時に、ロシアの軍撤退と賠償、さらに裁判によるプーチン氏らへの責任追及などが柱だ。連行児童の帰還も含まれる。
戦争が終結しても、数年後に軍を立て直したロシアが今度は自分たちを攻撃してくる事態を現実の脅威として警戒している欧州も、このウクライナの目標実現をサポートしている。
今後のトランプ氏との首脳交渉では、ゼレンスキー氏がこの「公正で持続的な平和」原則の実現に向けた道筋をどこまでつけられるかが大きな焦点だ。
逆に和平案がこの原則を含め、ウクライナ側の主張を色濃く反映したものに変化すれば、プーチン政権が受け入れを拒否する可能性が高まる。そうなれば、戦争が続くことになる。
このためトランプ氏としては、和平案の内容を巡り、ロシアとウクライナとの間でバランスを取ることに腐心するだろう。その過程で、プーチン氏が和平提案に背を向けた場合、再び、トランプ氏が当初案にあった強引な案を復活させるという、二転三転のドタバタ劇の展開もありうると覚悟すべきだ。
そもそもなぜ、今回の当初和平案がこれだけロシア寄りになったのか。その説明として最も有力なのは、事前に米ロ両国高官が和平案の内容について協議して詰めたから、との見方だ。
これを補強する材料がある。関係筋によると、今回アメリカの和平案が突然浮上する約1カ月前の25年10月末 南部フロリダ州にあるトランプ氏の私邸「マールアラーゴ」にウィットコフ米和平交渉担当特使、トランプ氏の娘婿クシュナー氏、さらに、訪米したロシアのドミトリエフ大統領特別代表が加わり、集まったという。この協議の詳細は不明だが、ここで和平案について話し合われたのはほぼ間違いないだろう。
さらにこの当初案の原案はロシア側が作成し、ウィットコフ氏に送って調整したと言われている。英有力紙は英語で書かれている当初案の文面を分析した結果、明らかに英語としては不自然な表現があると報じている。つまり、ロシア側が作成した案をアメリカ側が英語に翻訳したもの、というわけだ。
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