【産業天気図・証券業(既存大手中心)】相場急落で先行き不透明感漂う。07年度後半は「曇り」予想に変更
順調な回復が見込まれていた証券各社の2007年度業績に、不安材料が急浮上している。8月の「サブプライムショック」がその震源だ。07年度後半にかけて、各社の主な収益源である株式委託手数料だけでなく、投資信託、外国債券などの金融商品の販売にも悪影響が出る可能性がある。天気見通しとしては、前回「晴れ」としていた予想を07年度後半、08年度前半とも「曇り」に変更する。
日経平均株価は年度初めから緩やかながらも上昇が続き、6月には終値ベースで1万8000円台を回復、以後7月末ごろまでは比較的堅調な展開だった。だが、米国のサブプライムローン(信用力が低い人向けの住宅融資)の焦げ付き問題に端を発した信用リスク収縮の動きから、株価は一気に下落局面に。8月17日には2000年のITバブル崩壊以来の下げ幅を記録した。
ヘッジファンドをはじめとする外国人投資家は、リスク資産を縮小。株価急落による信用取引の追い証発生などで、日本の個人投資家も打撃を受けた。このサブプライムショック以後の東京株式市場は、売買高が盛り上がらない軟調な相場が続いている。
「上場企業の期初の07年度増益予想は控えめな数値ながら、期中の上方修正が期待されており2ケタ増益も可能」として、「PER(株価収益率)などの指標から割安な日経平均は、年内に1万8000円台を回復する余地は十分」とする市場関係者は少なくない。ただ、証券各社の最大の収益源である株式委託手数料は、株価が上昇局面にあった4~6月期においても低調だったため、07年度後半にかけて各社の収益を押し上げる材料にはなりそうにない。
「貯蓄から投資へ」の流れで、団塊世代の退職金をはじめ資産運用へのニーズが高まる中、証券各社の投信や外債の販売は増加基調が続いてきた。主要各社の4~6月期は、株式委託手数料が弱含む中でも、投信販売手数料、信託報酬などについては漸増傾向だった。ただ、8月のサブプライムショック以後は、主要通貨に対して円安基調だった為替相場も円高方向に振れている。投信では外貨建て商品の基準価格が下落するなど、一部では投信、外債についても投資家の様子見ムードも広がりつつある。
サブプライムローン問題は、証券化商品市場全体の信用を失墜させた。どこにどれだけ損失が隠れているか分からない状況においては、市場参加者が積極的な買いに出動しづらい。この問題がどこで落ち着くかによって状況は違ってくるだろうが、07年度後半から08年度前半にかけては、株式委託手数料は伸びないだろう。投信、外債も為替リスクをにらみながら、これまでのような増加ペースが持続できるかどうか不透明感が強い。
『会社四季報』秋号予想では、4~6月期決算が想定以上に好調だった会社については上期の業績予想を増額したが、今後の不透明要因から通期の予想は据え置いた。4~6月期決算が想定に達していなかったり、明らかに不調だった会社については見通しを減額した。
足元の業況は別として、今後業界の最大の注目点となるのは、銀行グループによる証券業の囲い込みだろう。
昨年、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)<8316>はSMBCフレンド証券を完全子会社化。今年は、米シティグループによるTOB(株式公開買い付け)が4月に成功し、日興コーディアルグループ<8603>がシティグループ入りした。
ほかにも、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)<8306>は三菱UFJ証券<8615>を9月に完全子会社化する。MUFGは、すでに4月にネット専業のカブドットコム証券<8703>への出資比率を40%超に高めたほか、ネット専業で独立系の松井証券<8628>とも提携交渉中だ。みずほフィナンシャルグループ<8411>系の新光証券<8606>は08年1月にみずほ証券と合併する。
世界的には、金融コングロマリット化の流れが進んでいる。他金融グループとは連携せずに独立路線を貫く証券業トップの野村ホールディングス<8606>や、すでに法人業務でSMBCと連携する大和証券グループ本社<8601>の出方も注目されるところ。さらなる再編が起きる可能性も残っているといえそうだ。
【武政 秀明記者】
(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部
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