クマに襲われた人たちの"深刻な現状"――「命に別状はない」ではすまされない体と心に残る深い傷。"クマ外傷"治療にあたる救急医から学ぶこと
中永さんが勤める高度救命救急センターに搬送されるのはほとんどが重症例だが、幸いにも救命率は高く、今年に限ると亡くなった例は1例しかない。それも、別の医療機関で心肺停止が確認されたあとに、搬送された負傷者だった。
何が生死を分けるのか。中永さんは「傷を負った直後の行動」だと話す。
「特に顔面損傷の場合、意識を失って倒れている間に大量の出血が気道を塞いでしまうと、窒息死や脳死を招く。ですから、搬送された際は真っ先に気管挿管して気道を確保し、同時に止血を行います」
クマ外傷はさまざまな部位にわたるため、他の診療科と連携して治療を進める。
「クマに顔を襲われて鼻が取れてしまった方のケースでは、救急隊が拾って持ってきた鼻を形成外科医が接合しました。奇跡的に嗅覚まで取り戻すことができました」
心身をむしばむ「後遺症」
繰り返すが、クマ外傷の問題は、命を取り留めてもさまざまな後遺症が残ってしまうところだ。先の例のように鼻の接合に成功することもあるが、そもそも体の損失部分が見つからないこともある。
なかでも、目の傷は視神経が切れてしまっていれば失明はまぬがれない。視神経が助かったとしても、ものが二重に見える「複視」、涙腺が傷ついたことで涙が止まらなくなる「流涙」などの後遺症が残る。
「ほかにも、顔にマヒが残る『顔面神経マヒ』、唾液が流れ続ける『唾液漏(だえきろう)』、噛み合わせに支障が起こる『不正咬合』、傷が治っても痛みが続く『神経因性疼痛』など、さまざまな後遺症があります」



















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