クマに襲われた人たちの"深刻な現状"――「命に別状はない」ではすまされない体と心に残る深い傷。"クマ外傷"治療にあたる救急医から学ぶこと
クマはまた鋭い牙と大きな顎を持つ。前足による一撃のあと、その口で噛み付いてくるため、咬傷によるダメージも大きい。顔をかばったり、クマを追い払おうとしたりする際に手指を失うこともある。
目や鼻、顎などの皮膚や肉をごっそり失ったり、骨が折れたり、陥没したりすることも少なくない。だが、中永さんによると、不思議なことに「クマに襲われた直後の患者さんは、あまり痛みを感じていないようだ」と言う。
「何とか助かろうという防衛本能が働いて、脳内ホルモンともいわれるアドレナリンが出るからでしょう。血管が収縮して出血量が抑えられて助かった患者さんもいます」(中永さん)
もちろん、そのあとは激しい痛みが出るため、麻酔や鎮痛薬などによる疼痛管理が欠かせない。
命に別状はなくても…
テレビや新聞などでは「クマに襲われたものの命に別状はない」などと報じられるが、簡単に「それはよかった」と片付けられるものでもない。
「クマにちょっと引っ掻かれた程度でも、人間は大きな傷を負う。加えて、命が助かっても、さまざまな後遺症が残る重症例が非常に多い」と中永さん。そうした“現状”を知ってほしいという思いもあり、中永さんは今年5月、書籍『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』を出版した。
「2023年にクマ外傷が多かったため症例が一気に集まり、治療技術も向上した。その知見をさまざまな医療機関に共有し、治療に役立てていただけたらと思っています」
同書は医学専門書であるが、クマの生態をまとめたコラムなどもある。ネットのブックストアなどを見ると、一般の人にも読まれているようだ。



















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