クマに襲われた人たちの"深刻な現状"――「命に別状はない」ではすまされない体と心に残る深い傷。"クマ外傷"治療にあたる救急医から学ぶこと

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こうしてばったりクマと出会ってしまい、襲われるケースが意外と多い。この男性は重症を負ったものの、中永さんらの治療で一命を取り留めた。だが、早朝に行うしかない新聞配達は怖くてできなくなったそうだ。

一方、最近では遠くからクマが走ってきて襲われたというケースもある。

「別の方は、朝ランニングをしていたところ、10mほど向こうにクマが見えたそうです。通常、クマは人間を避けるはずですが、このクマは驚くことにまっすぐに向かってきて、気がついたら襲われていたといいます」と中永さんは話す。クマは時速40〜50kmのスピードで走ることができるため、逃げるのは不可能に近い。

こうしてクマが人間に出会ったとき、真っ先に顔を狙ってくるという。

「当院が診た9割のケースでは、顔を損傷しています。クマは自分のほうが強いと見せる威嚇のために立ち上がり、前足を左右に振るため、ちょうど顔に当たりやすいんだと思います。また、人間を含む動物の急所は目などのある顔だとわかっているのかもしれません」

一方で、報道でよく見かける「腹部の損傷」はそれほど多くない。ごく一部のクマに限られるそうだ。

ケガの好発部位。頭と顔にケガを負うことが多い。防御の結果なのか上肢のケガも多い(論文より転載 ©2024 The Authors)

クマによるケガの実態

大きくて鋭い爪を持つクマの攻撃は、相当なものだ。「たとえるなら、刃物を振り回した自動車が衝突してくるようなもの。クマ外傷は尖ったものによる『鋭的外傷』と、重く硬いものによる『鈍的外傷』を兼ね合わせているため、深く複雑な傷になりやすい」と中永さんは話す。

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