興味深いのは、創作の全工程を日韓で同じテーブルに乗せ、意思決定を共有した点です。この作品は、釜山国際映画祭でも注目作として出品され、現地で月川監督に話を聞く機会がありました。「やり方の違いに戸惑うこともありましたが、感情の描き方で共鳴できました」と監督は穏やかに語っていました。
さらに聞けば、日本の現場は、段取りや照明、動線を丁寧に積み上げていくスタイルに対し、韓国チームは俳優の感情の流れを最優先に、その場で芝居を変えていく柔軟さを持ち込んだといいます。台本にない動きやセリフが生まれることも多く、最初は戸惑いもあったそうですが、やがてその勢いが現場全体を活気づけていったとか。
Netflixが出資した予算の中で、クリエイティブの共同制作として成立したことが、作品の成功に繋がっているように思います。
月川監督が刺激を受けた“日韓の制作の違い”とは
では、日韓の共同制作がどのようなかたちで機能したのかというと、その答えの1つは、現場の設計にありました。日本のドラマ制作の現場ではまだ馴染みのない「プロダクションデザイナー」がキーマンとなって、セットや衣装、照明の光、色のトーンなどカメラに映る全てを統括し、作品の空気感を具現化していったそうです。
この役割を美術のイ・ハジュン氏が担い、物語の舞台となるチョコレートショップ「ル・ソベール」は、彼が3Dで構成図を作り上げ、光の入り方や人物の動線、ショーケースの配置まで緻密に設計したといいます。異国情緒の中にどこか温かみのある絶妙な“温度”が、ドラマ全体のトーンを決めていました。
月川翔監督は、その進め方に強い刺激を受けたそうです。「韓国の方は、まず“これが理想です”という形を示してくれるんです。すべての選択に理由があり、そこから現実に落とし込んでいく。日本は、決められた範囲の中でどう工夫するかを考える文化。どちらも正しくて、そのふたつが合わさったハイブリッドなやり方で、いいバランスが生まれた」と話していました。


















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