向谷実氏の新幹線シミュレーターが凄いワケ CGではなく実写映像や音にこだわり世界へ
数多くの路線をソフト化し、ゲームメーカーとして定着していた同社の方向性が大きく変わったのは、2006年から2007年にかけてのことだ。2006年、同社は東急電鉄の教習所に納入するシミュレーターを他社と共同製作した。その後同社の開発の中心となっていく、乗務員教習用の大型のシステムだ。
きっかけとなったのは「Train Simulator」と「電車でGO!」のコラボ作品としてリリースした、東急電鉄の路線を題材にした作品だった。
発売後に東急の乗務員教習所から、自社のシミュレーターをつくる上で「音楽館の技術を使えないか」との話が突然飛び込んできたという。向谷さんは「ゲーム会社にやらせてくれるの?と驚いた」と当時を振り返る。
東急の教習用シミュレーターを手がけた翌年の2007年には、さらに発展のチャンスが到来した。さいたま市に同年オープンした「鉄道博物館」に蒸気機関車D51のシミュレーターを設置するためのコンペが行われ、「蒸気機関車大好き」な向谷さん率いる音楽館も参加。その結果、音と映像の融合にゲーム制作で鍛えられていたことが評価された同社が受注したのだ。
撮影用の専用列車を走らせる
この2つを転機に、同社は展示用や乗務員教習用のシミュレーターを開発の中心に据えることになった。現在では鉄道博物館をはじめ、東急の「電車とバスの博物館」や「東武博物館」といった施設の展示用、また東急やJR九州などで教習用として、音楽館のシミュレーターが導入されている。
では、こだわりのシミュレーター制作はどのように行われるのだろうか。
向谷さんによると、もっとも大事なのは「撮影でどれだけいい素材を得られるか」だ。ゲームソフトとして発売した当初は撮影に立ち会えず、提供された映像を使っていたというが、現在は撮影用の専用列車を走らせ、その運転台から撮影する。
向谷さんは「本当に緊張の連続なんですよ。天気とかいろいろな状況で素材撮影は決まるので、ここは技術だけじゃないんですね」と、運と入念な準備の両方がものを言う撮影の苦労を語る。
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