向谷実氏の新幹線シミュレーターが凄いワケ CGではなく実写映像や音にこだわり世界へ
特に撮影条件を大きく左右するのが自然現象だ。雨が降れば当然ながら撮影はやり直しになる。季節によっても撮影しやすい時期と向いていない時期があり、特にやりにくいのは夏だという。フロントガラスに虫がぶつかってくる。エアコンの音がどうしても入ってしまう。
理想的なのは冬の終わりから春にかけての時期だが、展示の都合で制作期間が4カ月と短かったE5系シミュレーターの撮影は夏に行った。「虫がぶつかるとワイパーを使っても跡が残ってしまうし、ワイパーを使うとその区間の映像は使えないし」と、苦労が多かったという。
「撮影用列車のダイヤ」も重要だ。たとえば複々線の路線で各駅停車の映像を撮影しているときに、駅で特急列車に追い抜かれてしまうと、シミュレーターにもその特急が不自然な形で映りこんでしまう。
このため、特に都市部の過密路線の場合は入念なダイヤの調整を行うほか、「駅の間で速度を調節して、うまく列車に抜いてもらう」こともあると向谷さんはいう。さらに「可能なら途中の駅は通過するのが理想」だ。停車すると「わずか15秒でも雲の位置が変わってしまったりして、映像をつなぎにくい」ためだ。
ミュージシャンだから音にこだわる
撮影の際には、音楽館のシミュレーターで重要な要素である「音」も同時に収録する。音については「実際の路線をまず取材して、ジョイント音やポイントの通過音、踏切のドップラー効果など、その場面に必要な音を適時はりつける」という形をとっているが、やはり基本になるのは撮影時に収録した音だ。
マイクは運転台真下の台車付近と車内に設置。車両の床下に配線するため準備も大変だが、リアルな音を求めての結果だ。
ミュージシャンならではといえる音へのこだわり。すれ違う車種や編成によっても音を変えているほか、作品によってはすれ違う列車が力行(加速している状態)なのか惰行(惰力で走っている状態)なのかで異なる音も再現するという。
収録だけでなくシミュレーターでの再生もリアルさを追求し、たとえばD51のシミュレーターでは、ボイラーや汽笛、左右の動輪、給水ポンプなど、音が発生する場所それぞれに計10個のスピーカーを設置している。
「人間は、目はごまかされやすいんですけど、耳はごまかされにくい」。いかに映像がきれいでも、音がリアルでないとシミュレーターで感動は与えられないと向谷さんは力説する。
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