「私が幼い頃は父がサラリーマンで、母が専業主婦、兄が1人の核家族。学校にも自分と似たような属性の人が多く、自分は“普通”という意識が強かった。むしろその普通から逃れたくて、 “ロードサイド文化”の中で必死にサブカルチャーを求めて育った」と自身を説明する山内氏。
ロードサイド文化とは、幹線道路沿いに、ファミレスや家電量販店といったチェーン店などが並ぶ商業文化のことである。
地方女子という特性は、「自分自身を小説で表現するには何を書くべきか格闘するうちに見えてきた。ありきたりな特性のはずなのに、実は小説であまり正面から描かれていなかった」と気づき、テーマに据えてきた。
地方に暮らす女性たちが受けてきた抑圧
東京に暮らして長いが、「富山へは出張も含めてよく帰省し、帰るたびに兄や友人などの話を聞き、街を歩いて、地方の生活圏のリアリティを忘れないようにしています」と話す。
にもかかわらず、富山ゆかりの女性たちが受けてきた抑圧は、山内氏の想像を超えていた。
「1959年生まれのかずこさん(仮名)はバブル世代。日本が経済的にもっとも豊かだった時代に20〜30代を迎えています。
でも『女だから』と四年制大学には進学させてもらえず、結婚すると家事や子育てはもちろん、夫の両親のハードな介護も担った。氷河期世代、貧乏クジ世代に属する私には、とても華やかに見えていた世代の女性が、こんなに“嫁”という立場の重さを背負っていたことに驚きました」
かずこさんは20代で2人の娘を産んだが、農家の長男の嫁で、姑や周囲から「跡取りは?」と言われ続けた。酒乱だった舅を看取ると今度は姑、その次は実の両親の介護を全部担わされている。
女性は結婚し子育てをするのが当たり前とされ、明治後半に制度化された家父長制の影響を色濃く引きずる土地柄。富山県は共働き率も高いが、「実態はお母さんが家のことを全部やりながら、パートタイムで働いているケースが多い。『共働き率が高い』=『リベラルな家庭』というイメージとは真逆の現実」という。


















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