1日6000台の生産能力を持つNEC米沢工場。法人顧客約2万種のカスタマイズに最短3日で応えるPC生産体制は、どのように構築しているのか
米沢事業場は単なる組み立て工場ではない。「設計・部品調達・製造・品質保証のすべてが米沢に集約されている」と飯田陽一郎執行役員は強調する。NECブランドの法人向け「VersaPro」「Mate」、個人向け「LAVIE」のすべてがこの米沢で設計・開発されている。ThinkPadモバイルワークステーションのフラグシップモデル「P1」の開発も担当。横浜・みなとみらいの大和研究所と連携しながら、グローバル市場向けの製品開発を行う。
開発から生産まで同じ建物内で完結できる。これが米沢の最大の強みだ。何か問題が発生すれば、開発・調達・製造・品質保証の担当者がすぐに集まって解決にあたる。この「顔の見える距離」での連携が、迅速な問題解決と継続的な品質改善を可能にする。
開発段階では、設計検証から試作、システム試験、量産試験まで、5つのフェーズを設定している。EVT(エンジニアリング検証試作)で基板レベルの波形確認と筐体を含む試作機を評価する。続くFVT(機能検証試験)、SIT(システム統合試験)、SVT(システム検証試験)を経て、最終的にSOVP(量産前検証)で100台規模の安定性を確認する。各フェーズの最後には必ずゲートがあり、基準をクリアしないと次に進めない。
最終的には150項目以上の評価試験を実施する。150kgの圧力をかける面加重試験、LCD画面をひねる試験、ランダム振動試験。すべて実際の使用環境より過酷な条件設定だ。
生産ラインでも、AIカメラによる外観検査システムが稼働している。筐体の傷や汚れ、部品の取り付け状態を高速でチェックし、不良品を自動検出する。ただし、最終的な良品・不良品の判定は熟練検査員が行う。機械による見落としの防止と、人間の経験値による境界線の判断。両者を組み合わせて品質を担保している。
製造業の新たな競争軸
米沢事業場が示すのは、単純な自動化競争とは異なる道筋だ。最新技術を導入しながら、あえて人の判断力と技術を残す。AGV、ロボットアーム、AIカメラといった技術と、熟練作業員の経験を戦略的に組み合わせる。
完全自動化を目指せば、確かに効率は上がるだろう。ただし、法人顧客の多様な要求には応えられない。約2万種類のカスタマイズパターン、1台ごとに異なる構成、急な仕様変更。これらに最短3日で応えられるのは、協力会社5社と一体となった地域の生産体制があるからだ。
米沢事業所は、毎日6000台の生産能力を持ちながら、1台だけの特注品にも対応する。それは「完全自動化しない」という選択が生んだ、日本製造業の新しい形だ。
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