東西約200メートルに及ぶビルの正面、日当たりのよい南面は皇居を向いている。9階建てとは思えない開放感で、ここで働ける人が猛烈にうらやましくなるほどの眺めだ。
だが、このビルが面白いのは、むしろ裏側。
ビルのすぐ裏手、ギリギリのところを首都高が縦横無尽に走っている。
この首都高も、実はビルとほぼ同世代。1960年代に整備されたものだ。
有楽町からの移転を決めた大きな理由として、急速に進む車社会の中で、交通渋滞が新聞輸送の大きな課題となっていたことがある。
ビル建設の発表時、毎日新聞の社告には「この美しく、たくましい大東京の心臓部」という言葉があった。皇居の緑と首都高……東京の持つ「美しさ」と「たくましさ」が、いまもこのビルの表と裏に共存している。
また、ビルの建設とあわせて、直結する地下鉄・東西線の竹橋駅も新設された。地下構造が複雑で、設計には相当な苦労があったそうだが、毎日新聞社側から設計案を提示するという強い働きかけにより、駅の新設が実現したという。
見て、歩いて、感じる――構造の美
このビル、実に明快な構造をしている。
オフィス空間をできるだけ広く確保するため、通常は中央に設けられるエレベーターやトイレ、階段などの共用部を、両端の円筒コアにまとめて配置しているのだ。
これにより、地下につくられる印刷工場や駐車場のための大空間も確保することができた。つまり、美観を狙って生まれた形ではなく、機能性から必然的に生まれたデザインなのである。
では、単なる円筒なのかというと、そうではない。
1周56枚のプレキャストコンクリート板が刻む溝が、独特の陰影を生み出している。これを見て思い出すのは、ギリシャ神殿の列柱だ。



















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