累計8億本!キリンビールの糖質ゼロがバカ売れのワケ 発売から5年も成長維持。健康志向の高まり見据えた次なる戦略とは

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

8月下旬からは新タレントを起用したTVCMやデジタル広告を展開し、 「糖質オフ・ゼロ=おいしくない」という先入観を払拭する新たなコミュニケーションを打ち出した。 「TVCMを見て飲んでみたらおいしかった」「普通のビールと変わらない味が楽しめる」という声も多く、リニューアル後2週間の販売数量は前年比約110%と好調なスタートきった。

試作から量産までの壁

ここまでは開発や商品戦略の視点から見てきたが、その挑戦を支えているのは全国の製造現場だ。糖質ゼロという難題を、実際の生産ラインに落とし込むにはさらなる工夫が必要だった。

私自身、食品メーカー勤務時代にスケールアップ(試作から量産への移行)に立ち会った経験があるが、試験設備での分析値が、そのまま工場で再現できるとは限らない。小規模な試験設備と比べて、実際の生産ラインはタンクの大きさや発酵の温度分布、酵母の働き方などが微妙に異なるためだ。

「現在、『一番搾り 糖質ゼロ』は仙台・取手・滋賀・神戸の4工場で製造しています。わずかな条件の違いが糖質値に影響を与えることもあり、理論上の結果を実機で安定して再現するには緻密な調整が欠かせませんでした。試験醸造設備に比べて、工場の製造タンクは数百倍規模と大きく、熱の伝わり方や酵母の働き方も変わります。そのスケール差に合わせて醸造レシピを最適化し、糖質ゼロを安定して再現できるまでに、あらゆる条件を調整しながら何度も試行錯誤を重ねました」(緑川さん)

開発から製造、そして消費者とのコミュニケーション。キリンは多面的な取り組みで、糖質ゼロビール市場をリードしてきた。その中で、筆者として特に注目したいのが工場見学のあり方だ。

キリンは、ビール業界最多となる全国9カ所で見学ツアーを展開している。見学施設は観光資源や社会貢献の場としての役割を果たす一方で、 製造工程を公開しながらブランド価値を伝える体験型のマーケティング拠点としても機能している。

現在の見学プログラムは「工場だけの特別体験。キリン一番搾り おいしさ実感ツアー」と銘打ち、 五感を通じて“一番搾り”のおいしさの理(わけ)を伝える内容となっている。

次ページ工場見学を続ける理由
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事