「高校入試で第1志望不合格→不本意入学」した彼が大学入試で「難関国立大理系」に受かるまで。モチベーションダウンからの"復活劇"

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3年生に上がると三重大学はA判定が取れるようになった。智香さんはこれで大丈夫だろうと思っていたが、当の裕也さんはまったく安心していなかった。

「高専の入試だって模試はずっとA判定だったのに落ちたんだ。ここよりも高いレベルの大学でA判定を出して、絶対受かる!という状態で入試を受けたい」(裕也さん)

そこで、次は静岡大学を志望校欄に書くことにした。ところがこちらもすぐに、A判定が取れるようになった。

静岡大学がA判定なら、もう少し上の偏差値帯の大学を書いてみよう。そう思った裕也さんは、次の模試で神戸大学と書いたが、こちらもA判定が取れるようになっていく。そこで、さらなる目標として捉えたのが、名古屋大学だった。

この間、智香さんは、本人から話を始めるまでは何も言わずに見守った。智香さんは智香さんで、高校入試の苦い思いを引きずっていたからだ。

「高専の受験のときに、学校の先生にも絶対に受かると言われていたので、私も息子を励ますために『絶対大丈夫だから』と声をかけていたんです。それなのに、結果は不合格で、あの時、本当に後悔したんです。

だから、大学受験では、たとえ模試での成績が良かったとしても、あえて、『ふ~ん』と、何も言わないようにしました」(智香さん)

智香さんはまるで、“成績には興味がない”というように振る舞った。実際、仕事もあるため四六時中、裕也さんのことを考えるなんてこともできない。だが、この気楽な感じが裕也さんには救いになっていたようだ。

「今回、取材を受けることを決めてから、息子に『大学受験の時、お母さんって、どんなところが良かった?』と聞いてみたんです。そしたら、『何も言わなかったことかな。落ち込んでる時も励ますんじゃなくて、一緒のトーンでいてくれたのが良かった』って言われました」(智香さん)

とんとん拍子に成績は向上したが…

高校3年生の夏の時点で名古屋大学はC判定。当初目標にしていた三重大学は安心して目指せる学力はついていたが、裕也さんには、せっかくなら名古屋大学もA判定にしたいという思いがわいていた。

それからもコツコツと自習室に通っては勉強を進めていく。すると、高3の秋にはA判定が取れるように。入試直前に行われた12月の模擬試験ではA判定の中でも上位になり、名古屋大学志願者の上位に食い込むことができていた。

目標にする偏差値帯を徐々に上げ、着実にA判定を積み重ねてきた裕也さん。その積み重ねは、高校入試で失ってしまった自信を取り戻すきっかけともなった。

筆者が高校の取材をしていると、「現役生の伸びしろはすごいんです」という言葉を聞くことが多々あるが、裕也さんはまさにそんな1人だろう。

迎えた共通テストでも好調ぶりを発揮し、本人も手応えを感じたという。後に届いた成績開示によれば、全教科8割は取っていた。特に英語の成績が良く、段階表示は9だ。共通テストの成績は入試が終わってから届くものだが、結果は自己採点とほぼ変わらなかった。

共通テストの好成績を受けて、私立入試は共通テスト利用型の入試を中心にし、残りの日々は国立大学の2次試験の対策に力を注ぐことにした。第1志望にしたのは名古屋大学理学部。私立は関西学院、関西大学、立命館。国立の後期入試には静岡大学を出願することにした。

私立入試の合格発表は2月15日に全部分かった。結果は全て合格。浪人はしなくて済むという安心感の中、名古屋大学の入試に挑んだ。

国立大学の2次試験は1日で終わるところが多い中、名古屋大学理学部の入試は2日間にわたって行われる。初日が英語と理科系の科目で、2日目に数学。自宅から大学までは電車を使って2時間かかるが、通おうと思えば通える。

だが、落ち着いて受験をさせてあげたいと、智香さんは名古屋市内で宿を探した。名古屋大学の近辺には宿がない。幸いにも智香さんは名古屋の土地勘があったので、大学までのアクセスが良く、かつ、朝がさほど混まない駅に絞って探し、地下鉄名城線の熱田神宮伝馬町駅近辺に決めた。

「ここなら、名古屋大学駅まで1本で行けます。朝が心配だから、ついてきてほしいと言われたので、同じホテルで別々の部屋を取って泊まりました」

入試1日目、智香さんは裕也さんを送り出した後、疲れて帰ってくるであろう裕也さんのために、甘いパンを買い込んでホテルに戻った。どんな結果だったとしても、甘いものは元気をくれる。そう信じて用意した。

本当は心配で仕方ない気持ちを隠し、帰ってきた裕也さんを駅で出迎えた。しかし、改札を出て現れた裕也さんの表情が暗い。

「最悪。ぜんぜんできなかった」と見るからに落ち込んだ様子。かける言葉が見つからない。2人とも無言でホテルのロビーに座り、甘いパンを頬張った。

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