買収後、本当に経営は立て直されたのだろうか。「経営は順調ですよ。お客さんは入っています。中国人客よりも今は、少しだけ日本人客の方が多いくらいですね」。中国人は商才があると言ってしまえば、それまでだが、立て直しに苦労していた日本人の経営から、中国人経営に代わった途端、業績が上向くというのは、よく聞く話ではある。この先、こうした地方の多くのホテルや旅館が、中国人の経営に取って代わられてもおかしくはない。実際、董氏は今、花京だけではなく、甲府市内のホテルも経営するという。
日本の不動産はバーゲンセール
日本人客が減った石和温泉では最近、目に見える形で、街並みにも大きな変化を感じるようになってきた。中国資本の旅館やホテルが密集する温泉街の東側。夕方にもなると、ホテルでチェックインを済ませた中国人観光客が、決まって散策に出掛けるこのエリアでは、中国本土の中華料理を提供する飲食店「ガチ中華」や、台湾式の足裏マッサージ店などが目立ってきた。
こうした雰囲気は、かつての石和温泉を知る多くの日本人からすると、少し変わりすぎではないかと、心配の声も上がってくる。市は「中国色」が強まる変化を、どう受け止めているのか。石和温泉近くにある笛吹市の市役所を訪ねて聞いた。
「確かに、石和温泉の旅館やホテルのオーナーが中国人に取って代わられるケースが増えていることは把握しています。石和温泉は、富士山に近い河口湖周辺の施設の3分の1程度の金額で宿泊でき、そうした安さもあって中国人観光客が増えています」と、観光商工課の男性職員は説明した。
その上で、職員は「中国人経営者の増加に対し、市民から厳しい意見が寄せられているのもまた事実です。ただ、中国資本による買収は、あくまで企業間の取引の結果であり、笛吹市としてはタッチすることができません。観光商工課としては、いかに市内の宿泊者を増やすかが重要で、それは国籍問わず、来ないよりは来る方がいいと思っています。旅館やホテルの収入が増えれば、税収も増えますし、それが地域の活性化につながると我々は考えています」と語った。
これが日本の地方リゾート、温泉街の現実だろう。地方にも確実に及んでいる中国からの波。だが、男性職員は最後に少し寂しそうにも語った。2023年、同市役所に訪れた中国人経営者が放った言葉が今でも忘れられずにいるという。「中国人からすると、日本の不動産はどこもバーゲンセールのようなものですね」


















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