「日本の不動産はバーゲンセール」中国人に次々と買われるリゾートや温泉地帯…登記簿300件を追跡して見えた、表に出ない"静かな買収劇"の実態

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ホテル「甲斐路(かいじ)」はその一つだ。

2021年、東京で通販業などを営む孫志民(サンジミン)社長が買収した。経営不振に陥っていたホテルに大がかりなリフォームを施し、中国でも大々的に宣伝するなどして見事に経営を立て直す。今では宿泊客の8割が中国人だ。

この石和温泉では、ホテルを経営する「売り手」も、観光客の「買い手」も中国人という構図。日本を舞台に、日本人は抜きにして、中国人の間だけで完結するビジネスが今こうして、リゾートでも広がりをみせる。

中国では買えない土地も、日本でなら1~2割安く買える

ホテル「甲斐路」と同じく2021年、高原リゾートとして知られる栃木県那須町のホテルも買収した孫氏。なぜ今、日本のリゾートへの投資を積極的に行うのか。その真意を聞こうと、東京・上野にある会社事務所を訪ねた。

―石和温泉のホテル「甲斐路」は、どんな思いから買収したのですか。

「日本は中国に比べると、物件の価格が安いのです。私がたまたま中国人だったというだけで、私の会社は日本の法人です。経営している会社はネット通販が本業なので、将来を考えて、別の事業があった方が良いと考え、買いました」

―孫社長はいつから日本と関わりを持つようになったのですか。

「私は1987年に来日し、茨城大学で外国人専任講師になりました。比較文化論が専門です。茨城大学に5年勤めた後、起業しました。その頃から、日本は『もったいない』と感じていました。良いものがあるのに、全然、海外には知られていないと思いました。大自然の雰囲気、温泉、癒やしは、日本独特の文化でしょう。特に田舎の温泉旅館は、中国とは雰囲気が異なります。私も日本の温泉旅館が大好きですからね」

―その中でも、石和温泉の甲斐路に目が留まったのは、なぜですか。

「甲斐路の値段、場所を見て、これは絶対に買わないといけないと思いました。中庭の日本庭園が気に入りました。日本全国の物件を20件ほど見たなかで一番でした。我々が2021年に買収する前、甲斐路から客足が遠ざかっていました。そのホテルを1年かけてリフォームし、中国で開催された『観光見本市』で紹介したり、SNSを使ったりして宣伝しました。だから、今ではお客様の8割は中国人です。今、石和温泉で最も外国人が来るホテルにもなっています。日本庭園が、他の旅館にはない特徴です。中国人客の中には足湯につかりながら、日本庭園を眺めるだけで満足する人もいます」

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