無報酬で家業の"老舗和菓子屋"に入った3代目女性、「伝統を壊すな」と職人からの猛反発を受けても、経営改革に乗り出した"覚悟"
未熟な仕事ぶりに厳しい指導を受け、時には陰口を叩かれる。父からは相変わらず関心すら持ってもらえない。心身ともに消耗した日々が続いた。
「体重が7キロ落ちて、ガリガリになりました」
それでも、家業を立て直すと腹を括った沙邦莉さんは踏ん張り続けた。

“非効率だらけ”の現場で挑んだ「職人の常識」との戦い
仕事にまっすぐに向き合っていると、沙邦莉さんは製造工程の非効率性に愕然とする。
「機械でやったほうが速い作業を、手間をかけて手作業でやっていたりするんです。時間がかかるからパートさんの時間も押して人件費になる。作業が夜に延びると光熱費もかかる。とにかく悪循環でした」
改善案を提案すると、父・克行さんの顔は険しくなった。
「ずっと続けてきたやり方があるんや。お前が余計なことをするな」
沙邦莉さんはここでようやく、祖父や父が生きてきた職人の世界の常識に直面する。
「職人の世界は、伝統と感覚が最優先され、効率という考え方がありませんでした。祖父も父も職人ですが、経営的な視点で見るとムダが多かった。極端に言えば、人件費という意識がゼロでした」

沙邦莉さんのミッションは、家業の立て直しである。だからこそ、父・克行さんの感情的な反発を真に受けず、作業の効率化に冷静に切り込んだ。
たとえば作業中の私語を禁止にしたり、製造工程を細分化して複数人での流れ作業にして時短したりするなど、無駄を徹底的に洗い出し、効率が悪い箇所があればすぐに切り替えを指示した。すると、長年のやり方で作業してきたベテラン職人やパート従業員から、強い反発を招く。
「『伝統を壊すな』『昔からこれでやってきた』と、何度も衝突しました。父とのケンカも絶えませんでした。変化になじめず辞めた社員やパート従業員は10人ほど。毎日ほんまにしんどかったですね」
改革の結果、残った従業員は18時までには全員退勤できるようになり、人件費と光熱費の大幅な削減につながった。
しかし、父の頑固さは変わらない。それどころか「お前に頼んでない。気にいらんのやったら辞めたらええ」と気持ちが通じ合うことはなく、親子の間に会話はないままだった。
後編では、コロナ禍で「気持ちが明るくなるものを」と挑んだ色鮮やかな和菓子をきっかけに、伝統に現代の感性を入れて“カワイイ和菓子”に取り組んでいく様子を紹介。さらに、衝突していた父との現在の関係性を取り上げる。

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