人材輩出の梁山泊だった「日刊まにら新聞」の無念/経営難から詐欺の道具に使われ紙面休刊/天皇も読んだ異色の邦字紙に捧ぐレクイエム
これに先立つ2023年6月、日本の証券取引等監視委員会はSDH社とSTEP CAPITAL MANAGEMENT(キャピタル社、本社・大阪市)、SDH社会長でキャピタル社の代表でもある須見容疑者を相手取り、金融商品取引法違反行為の禁止を求めて大阪地裁に提訴した。大阪地裁は2023年11月、証取委の訴えを認め、両社と須見容疑者に無登録での社債などの購入勧誘をやめるよう命じた。
2024年1月には、フィリピン入管局が当時まにら新聞の社長だった池田容疑者をマニラ国際空港で身柄拘束し、日本に強制送還した。このころには投資家への利払いも停止していた。
この後、まにら新聞の発行主体は、それまでのキャピタル社から現在のSTEP JP PRINTING SERVICEに名義を変更した。しかし経営権は須見容疑者らが握り続けていた。「一切関わっておらず」「関係がありません」という社告の説明は通用しないだろう。
サツ回りや調査報道をする稀有の日刊邦字紙
まにら新聞は1992年5月、元共同通信記者の野口裕哉さんが立ち上げた日刊邦字紙「Kyodo News Daily」を起源とする。1996年1月に名前を現在の日刊まにら新聞に変えた。

ブラジル、ペルーなどの南米やアメリカ・カリフォルニア州、ハワイなどで戦前から築かれた日本人移民社会のコミュニティペーパーだった邦字紙や、1980年代以降、世界の主要都市で発刊された日本語情報誌(フリーペーパー)とは一線を画し、地元紙の翻訳ではなく独自取材に基づく政治・経済・社会の硬派ニュースを中心に報道した。
一般の雑報に加え、現地領事館の業務や日本政府の途上国援助(ODA)の問題点を指摘する調査報道も展開した。ジャーナリズムの最も重要な役割は権力監視だという野口さんの信条が記者らを後押しした。さらに自らの経験から新聞記者の原点は「サツ回り」だとして、日本人記者にマニラ首都圏の警察署を夜回りさせていた。
「ひとたらし」で邦人社会に多くのネタ元を持つ野口さん自身のネットワークもあって、かつては日本人がらみの事件に関するまにら新聞の情報量は圧倒的だった。警察庁派遣の大使館員や日本メディアからの接触も多かった。世界の邦字紙の記事から選ばれる「海外日系新聞放送協会賞」を毎年のように受賞した。
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