戦後、【立派な戒名】が庶民に広まった背景には、「死してなおスター」の"まばゆい存在感"があった

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さて、ここで突然私事にて恐縮だが、筆者には20~40代の間に、不慮の事故や病気で亡くなった同世代の友人・知人が3人いる。

彼らの葬儀へ行くと、その"若すぎる死"に関係者はとても嘆き悲しんでいた。そういう悲しみに水を差しては悪いので、その場で口にはしなかったが、3人の葬儀会場で、実は筆者は等しく驚いた。

彼らの葬儀において、彼らには全員、「院号居士(いんごうこじ)」の戒名がついていたからである。

戒名には"ランク"がある、というのは、ここで細かく説明せずとも、誰でも知っている話ではあろう。

宗派によって多少の違いはあるが、まず「信士(しんじ) 」(女性の場合は「信女(しんにょ)」)という戒名がある。その上に「居士」(女性の場合は「大姉(だいし)」)の戒名があり、さらにそれらの戒名に「院号)」というものを付けて、さらなる"ランクアップ"を図ることができる。

これらの戒名のうち、信士の戒名料は実際のところかなり安い。寺や地域、宗派によっていろいろ事情が異なる場合もあるが、だいたい数万円~十数万円、高くて30万円くらいだろう。

しかし、これが居士になると50万円くらいの戒名料がかかるようになり、その居士に院号を付けると、100万円ほどになってしまう場合もある。しかし居士や院号といった戒名は、まさに"ランクが高い"ものであるがゆえに、かつては"社会の名士"のような人にしか付けないのが普通だった。

蔦屋重三郎の「分相応」な戒名

たとえば2025年のNHK大河ドラマの主人公である江戸時代の出版業者・蔦屋重三郎の戒名は「幽玄院義山日盛信士」である。院号は付いているが、居士ではない。その蔦屋重三郎と一緒に働いた浮世絵師・喜多川歌麿の戒名も、「秋円了教信士」である。

彼らは間違いなく、生前から社会の成功者として名のあった人たちなのだが、同時に当時の社会階級としては武士にあらざる庶民であった。とくにその死後に居士の戒名を送ろうとは、周囲の誰もが思わなかったということなのだろう。

もちろん、当時の町人などで居士の戒名を持っている人物もいるにはいるが、皆が等しく居士や院号をもらうような感覚ではなかったわけだ。

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