原発被害に悩む南相馬、医療再生の苦しい現実
原発事故による住民の避難で、約7万人の人口が一時、1万人にまで激減した福島県南相馬市。避難者の帰還とともに人口は約4万6000人(3月末)にまで回復した一方で、大きな課題になっているのが高齢者への医療ケアだ。
「困ったことになりそうです。一度、現場を見てもらえませんか」
千葉県鴨川市の亀田総合病院に勤務する原澤慶太郎医師(上写真)に、南相馬市立総合病院で働く旧知の坪倉正治医師(東京大学医科学研究所所属)から電話が入ったのは昨年9月。さっそく南相馬を訪れた原澤医師の目に留まったのが、原発から32キロメートルの距離にある市内鹿島区の川沿いに広がるおびただしい数の仮設住宅群だった。
首都圏の若手医師が医療支援で奮闘
市内31カ所にある仮設住宅では、震災や原発事故から逃れてきた5000人を上回る避難住民が暮らす。ここでは何もすることがなく、家に閉じこもりきりの高齢男性も少なくないという。支援の手だてが乏しければ、やがて孤立死が多発するのは目に見えている。しかし、市内の医療従事者は原発事故後に激減しており、マンパワーが足りない。
「この土地で何か役に立ちたい」と考えた原澤医師は現地赴任を上司に申請。昨年10月末、南相馬市立総合病院への出向が実現した。
32歳独身の原澤医師は現在、市内の安アパートで生活を送る。2歳下の坪倉医師とは亀田総合病院での初期研修で先輩、後輩の間柄だ。彼ら若手医師が原発事故の被害が色濃い南相馬の医療再生に奮闘している。