米国の自動車産業の待遇は製造業の中でも恵まれていて、リーマンショック前に採用された労働者の基本給は時給で約30ドルありました。ボーナスや福利厚生も考慮すると年収は10万ドル前後と非常に恵まれたものでした。
しかし、リーマンショック以降に自動車産業に新しく採用された労働者の賃金は時給でわずかに14ドルあまり、福利厚生も大きく削られているため、年収は3万ドルに達しないと言われています。また、ゼネラル・エレクトリック社でも、新たに採用した労働者の時給は13ドルと、従来から働いている労働者の22ドルから大きく引き下げられています。
「四半期資本主義」に高まる不満
つまり、米国を代表するような大企業で、多くの利益を出している企業であっても、株主総会や四半期決算で「物言う株主」からの責任追及を逃れるために、安易な人件費圧縮に走ってしまっているのです。
これらの動きは、間違いなく中間層の生活を苦しくし、やがては社会全体の成長にブレーキをかけることになるでしょう。また、自社株買いに使われる資金は、本来なら成長投資に向けて使われるべきものである場合も少なくなく、これも将来の成長を犠牲にしているものと言えるのです。
ただ、あまりに株主ばかりを重視する経営に対しては、米国国内でも疑問の声が上がり始めています。次期大統領の最有力候補と目されているヒラリー・クリントン氏は、「四半期資本主義」という言葉を使って、現在の市場の短期主義を痛烈に批判しています。行き過ぎた企業の自社株買いに対して、「短期の株価を重視し過ぎる姿勢は、長期の成長を損ない中間層の賃金も犠牲にしている」と発言し、警鐘を鳴らしているのです。
日本も米国と同じになると考えるのはあまりに短絡的ですが、可能性は否定できません。米国で起こった「行き過ぎた株主優遇」や「所得の二極化」などの悪い面を反面教師として、未来を見つめ、経営の本質やこれからの社会について考えていくことは非常に大切なことだと思います。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら