この結果を受けてかどうかは分かりませんが、アップル社は、2013年4月に600億ドル、2014年4月に300億ドルと、日本円にして10兆円にも及ぶ巨額の自社株買いを行うことを発表しています。にもかかわらず、2014年9月期の決算時点で870億ドルもの手元資金を有するアップル社に対して、多くの「物言う株主」がさらなる株主還元を要求し続けているのです。
アップル社以外にも、ゼネラル・エレクトリック社、ボーイング社、マイクロソフト社、エクソン・モービル社、シェブロン社といった米国を代表するような巨大企業が次々と自社株買いを発表し、株主重視の姿勢を鮮明に示しています。そして、これら一連の企業による自社株買いは、先にも述べたように、米国の株価を押し上げる大きな要因となっているのです。
自社株買いのために資金調達をする会社
しかし、このような企業の姿勢には、大きな危険が潜んでいます。積極的に自社株買いを行う企業は、アップルのように潤沢な手元資金を使って自社株買いを行う企業ばかりではありません。企業の中には、「今は金利が低くて資金調達がしやすいので、その資金を使って自社株買いを行い、株主の言い分を飲んでおこう」と考える企業もあるのです。つまり、金利を払って社債を発行するなどして資金を調達し、そのお金を使って自社株買いをしているのです。
企業業績が伸び悩んでいる企業などは、自社株買いを行うことで、発行済み株式数を減らしてEPS(1株あたりの純利益)やROEを高めることもできます。そうして「物言う株主」の圧力をかわしておけば、経営者は自身の地位は保てるわけですから、この安易な方法を選ぶ経営者は少なくありません。
しかしながら、このような短期的利益の追求に偏った歪な経営は、間違いなく長期で見た場合、企業の成長にとってはもちろん、社会全体にとってもマイナス面が大きくなります。たとえば、先に大規模な自社株買いに踏み切ったゼネラル・エレクトリック社やボーイング社などは、同時に、大規模な人員削減や人件費の削減を行っています。この両社だけではなく、米国を代表する産業である自動車産業でも、リーマンショック以降、新規雇用者の賃金水準を大きく低下させています。
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