相次ぐ被害「人を恐れないクマ」はなぜ増えた?最前線の研究者が教える「熊害が発生するワケ」と「遭遇時に身を守る対策」、そして共存への可能性

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「地域の行政の中に、大学などで専門教育を受けた野生鳥獣の専門人材を配置し、その人を中心に対応するような体制を作るべきです。クマだけでなく、農作物被害がより深刻なシカやイノシシ、サルなども含めた総合的な専門人材ですね。

欧米では州レベルで専門家が配置され、野生動物の保全と管理をしています。日本はそうした面ではまだまだ遅れています」

地域で必要なクマ対策とは?

北海道では、標津町や知床国立公園にそのような専門人材が配置され、本州でも島根、兵庫、長野、秋田などの一部地域でも導入が進んでいる。

ただ、自治体間の差が大きく、現状、多くの市町村に専門人材は不在。財政事情を考えれば、すべての市町村に専門人材を配置するのは難しい。複数の地域で専門家を共有するなどの工夫は必要だろう。

「専門人材が中心となって、居住地の周囲はやぶ払いや草刈りで見通しをよくし、クマが近づきにくい環境を整える。また、庭に植えられた栗や柿などの果樹は伐採し、生ゴミやコンポストは臭いが漏れないよう密閉して管理する。クマに『人里には餌がある』と学習させないことが何よりも重要です。

人間の生活圏に出にくい環境を整えれば、クマの生活は山の中で完結します。個体数が増えれば餌が足りなくなり、繁殖に失敗したり命を落としたりする個体も出てくるでしょうが、それは自然による個体数の調整ですので、人間はそれを気にしなくてよいでしょう」

クマを人間の生活圏から遠ざけることと同時に、危険なクマへの即応体制も求められている。学習によって人里に執拗に出没したり、人間や家畜、農作物に被害を与えるようになったりした個体は、それが存在している限り被害が続くという。

つまり、危険なクマが現れたら、可能な限り速やかに駆除しなくてはならない。

「行政の中にクマの駆除ができる人を配置できるといいですね。野生鳥獣の専門家でありつつ、有害駆除ができる人材が理想です。今は人材不足のため民間のハンターに頼らざるをえないのですが、本来彼らは要請に応じる義務はありません。行政の中に専門家がいれば、駆除も、日常的な対策や普及啓発活動も円滑に進むでしょう。

9月1日に改正鳥獣保護管理法が施行され、人間の生活圏にクマなどが出没した際に、市町村の判断で特例的に市街地での猟銃使用が可能となる『緊急銃猟』という制度が創設されました。少しずつですが、対応は進んでいます」

人間とクマの軋轢は年々大きくなりつつあるが、「まだ人間の側はほとんど手を打てていない」と坪田教授は語る。裏を返せば、クマ対策にはまだ大きな伸びしろがあるということでもある。

人間とクマは十分に共存できる

クマの暮らしを山の中で完結させること――それが人間のなすべきことだ。もちろん、そんな環境は一朝一夕に整うものではないだろう。だが、取材の最後に坪田教授が口にした言葉は、心強いものだった。

「クマの行動を管理する仕組みをきちんと作れば、人間とクマは十分に共存できますよ」

大谷 智通 サイエンスライター、書籍編集者

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おおたに ともみち / Tomomichi Ohtani

1982年生まれ。兵庫県出身。東京大学農学部卒業。同大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻修士課程修了。同博士課程中退。出版社勤務を経て2015年2月にスタジオ大四畳半を設立し、現在に至る。農学・生命科学・理科教育・食などの分野の難解な事柄をわかりやすく伝えるサイエンスライターとして活動。主に書籍の企画・執筆・編集を行っている。著書に『増補版寄生蟲図鑑 ふしぎな世界の住人たち』(講談社)、『眠れなくなるほどキモい生き物』(集英社インターナショナル)、『ウシのげっぷを退治しろ』(旬報社)など。

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