相次ぐ被害「人を恐れないクマ」はなぜ増えた?最前線の研究者が教える「熊害が発生するワケ」と「遭遇時に身を守る対策」、そして共存への可能性

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約1万1600頭のうちの数頭というと、大まかには「満員の日本武道館の中に数人」といった割合である。そう考えれば、人間や家畜を積極的に襲って食べるようなクマは、たしかにごく例外的な個体だといえるかもしれない。

「クマはもともと肉食性の動物ですが、進化の中で食性を草食性に近い雑食性に変えてきました。現在の日本のクマ類は、食物の8~9割を植物性のものでまかなっています。残りの1~2割の食物は、アリやハチなどの昆虫です。生息地にサケやマスが遡上する河川があればそれらを捕食することもありますが、獣を襲って肉を食べることには積極的ではありません」

一方で、「容易に得られる環境にあれば獣の肉も食べる」と言う。

冬場に衰弱して死んだシカの死体をあさったり、岩陰や草むらに隠れて動かない生まれたばかりの子ジカなどを捕食したりすることはあるそうだ。

「畑でかがんで作業している人間を小動物と誤認して、背後から襲ったような事例はあります。ただ、ヒグマがほかの動物、特に人間を捕食目的で襲うことは、極めてまれです」

ほとんどの人身被害は偶発的

坪田教授によれば、人身被害は山菜採りの最中に発生するケースが目立つという。クマの生息地の中で採集に没頭するあまり、意図せずクマと接近してしまい、驚いたクマから反射的に攻撃されてしまうのだそうだ。

「人間と不意に遭遇して驚いたクマが、自らの身や子連れの母グマであれば子グマを守るために攻撃行動をとることがあります。したがって、クマの生息地に入る際には、クマよけの鈴やラジオなど音の鳴るものを身に着けておくことが大事。人間がその存在を遠くから知らせるようにすれば、普通はクマのほうで避けてくれます。

同時に、常に周囲に気を配るようにしてください。獣の臭いを感じたり、唸り声が聞こえたり、クマの足跡やフンを見つけたりしたときは、ただちにその場を離れましょう。人間の側が気をつけておくことで、およその人身被害は防ぐことができます」

北海道のフィールドで約30年にわたってヒグマの調査をしている坪田教授だが、上記の心がけによって、これまでに一度も危険な目には遭っていないそうだ。

人身・畜産・農作物被害に加えて、近年、人間の生活圏へのクマの出没も増加の一途をたどっている。結果、かつては山の中で発生することが大半だった人身被害も、昨今では人里でクマに襲われるケースが見られるようになってきた。

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