相次ぐ被害「人を恐れないクマ」はなぜ増えた?最前線の研究者が教える「熊害が発生するワケ」と「遭遇時に身を守る対策」、そして共存への可能性
背景には、「ヒグマの個体数の増加」と「里山からの人間の撤退」があると、坪田教授は指摘する。
「かつての北海道では、熊害を減らすために捕殺が推奨され、行政も『春グマ駆除』を実施していました。しかし、捕殺のしすぎで一部の地域個体群を絶滅寸前まで追い込んでしまったため、1990年に春グマ駆除は廃止されました。
加えて、高齢化や担い手不足でハンターも減少し、今では山の中で銃で撃たれるヒグマはほとんどいません。その結果、1991年には推定5514頭だったヒグマは、2023年末までに推定1万1661頭にまで増えました。30年余りで個体数が2倍以上になったのです」
人を恐れないクマが増えた理由
捕殺が減るのに伴い、人間に追われて銃で狙われるといった「怖い経験」をするヒグマも減った。坪田教授は「そのせいで人を恐れないヒグマが増えてきている」と話す。
「銃で狙われながら山の中を追い回される経験をしたヒグマは、人間を避けるようになります。捕殺が盛んだった頃、クマは『人間は恐ろしい存在である』と認識していたはずです。
その認識は母グマから子グマへも受け継がれていたと思われます。子グマは生きる術を母グマから学習しますから。しかし今では、そうした学習の機会がなくなっています。そのため、人間の存在を気にしない個体が増えてきたのだと考えられます」
ヒグマの個体数の増加とともに、人間社会の変化も状況に拍車をかけている。少子高齢化で里山が管理されなくなり、空いた空間に野生動物が入り込むようになった。その中にはヒグマも含まれる。
「クマの生息地のフロントラインが、人間の生活圏のすぐ近くまで迫ってしまったのです。これも近年、人間とクマの遭遇が増えている要因の1つです」
最終的にヒグマが人里に出没する引き金となるのは、「餌」だ。空腹のクマが餌を探すうち、人間の居住地や農地に出てきてしまう。
「植物性の餌が乏しいとき、クマはアリやハチを食べてしのいでいます。しかし、人里に生ゴミや農作物など栄養価の高い餌があることを学習すれば、そちらに向かうようになります。執着心が強い動物でもあるので、『もう一度食べたい』となったら抑えがきかず、行動がエスカレートしていきます。
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