相次ぐ被害「人を恐れないクマ」はなぜ増えた?最前線の研究者が教える「熊害が発生するワケ」と「遭遇時に身を守る対策」、そして共存への可能性

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2019年から2023年にかけて、北海道東部の標茶(しべちゃ)町や厚岸町で放牧牛66頭を襲い、32頭を殺したOSO(オソ)18も記憶に新しい。OSO18は2023年7月末にハンターに駆除されたが、被害総額は2000万円を超えた。

これらは近年で特に世間に注目された被害だが、クマ類の人里への出没や、人身・畜産・農作物被害は、日本中で絶え間なく発生している。

連日の報道を受けて、クマとの付き合い方にさまざまな意見が出ている今こそ、熊害(ゆうがい)の現状と、クマという動物の生態を正しく理解することが必要ではないか。

そこで、近年多発している熊害の背景とヒグマの実像について、北海道大学大学院獣医学研究院の坪田敏男教授に話を聞いた。

坪田教授は、北海道に生息するヒグマの生態や生理を約30年にわたり研究し、日本における人間とクマ類の共存を図るNGO「日本クマネットワーク」の代表(現在は監査役)も務めてきた人物だ。

草むらに引きずり込んだ理由は

坪田教授はクマの特徴について、まず「学習能力が高く、経験によって行動がたやすく変容してしまう動物です」と説明する。

「福島町で新聞配達員を襲ったヒグマは、4年前にも人間を襲っていたということですから、おそらくそのときに『人を襲えば肉を食べられる』と学習してしまったのでしょう。

新聞配達員はヒグマによって草むらに引きずり込まれており、これはヒグマが獲物を捕らえたときにとる特有の行動です。このような個体は人間にとって非常に危険ですから、即、駆除するしかありません」

報道によれば、襲われた新聞配達員は被害に遭う4日ほど前から何度もヒグマと遭遇しており、ヒグマに執拗につけ狙われていた可能性があるという。

ヒグマによって猟奇的で恐ろしい連続殺人が起きたことになるが、坪田教授は「このようなヒグマは、一般的なヒグマから逸脱した異常個体といえる」と解説する。

「北海道には現在、推定で約1万1600頭のヒグマが生息しています。ヒグマによる人身被害や農畜産物被害は増加傾向にありますが、ここ数年で人間や家畜を積極的に襲ったのはそのうちの数頭です。ヒグマは基本的に臆病で、ほとんどの個体は山や森の中でひっそりと暮らしています」

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