しかし今よりもさらに仕事が忙しく、体も元気だったので、「こんなものでしょう」と流してきた。ところがいよいよ80代に入ると、体の変化をごまかせない。吊り戸棚のものを取りだすために踏み台に乗るのが、怖いなと思い始めた。
「ちょうどその頃、私の少し上の世代の何人かがちょっと会わないうちに、車椅子生活になっていたんです。ご自宅を訪ねると、子どもたちが台所のシンクを低くしたり段差をなくしたりと、部分的に車椅子対応のリフォームをしていました。でも、なんだか働き盛りの若い人たちの視点なんですよね。シンクを低くしても、車椅子の人は、膝がキャビネットの扉に当たって蛇口まで手が伸ばしにくいと思います」
人はいずれ自由が利かなくなること、そしてそのためのリフォームには当事者であるシニアの視点が必要なこと。髙森さんは待ったなしの老いの現実を痛感した。

髙森さんは常々、「病気になるとしたら夫のほう」と仮定的に思っている。同い年の夫が病気になったら、一番大事なのは食べることだ。素性のわかる食材で、夫がおいしく食べられるものを作るのは自分しかいないだろう。
そして、自分だって車椅子生活になるかもしれないという想定も、現実味を帯びてくる。そうなっても、できる限り、この家で夫と生きていきたいと思っている。
そこで、思い立ったのだ。

80代のリフォームで大事にしたこと
一般的に超高齢になると、あと何年使うかわからないからもったいないと、お金をかけてまでリフォームする人は多くない。しかし、目の当たりにした現実と未来への備えの必要性が、髙森さんの背中を押した。
「年寄りに待ったなし。毎日のことを大事にしよう」と自分が動けるうちに台所をリフォームしようと思い立ったのだ。
髙森さんが考えた改善点の方向性は3つ。
・食器類や道具を取り出しやすくする →台所で過ごす時間を快適に
・配膳スペースを広げる →自分の作った料理を好きな器に盛って心地よく食べる
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