原発建設ラッシュの中国、地元から広がる反対の狼煙
2006年、磨盤村で原発建設に関するアンケートを行った際、原発がある長江の対岸に位置する、江西省彭沢県湖西村から書記が調査にやって来たという。
そのとき、磨盤村の韓正書記は事前に村人に対して、「身分証明書も併せて持って来てもらいたい。また、アンケート用紙の質問項目に全部丸をつけた人には、せっけん粉と皿洗い用の洗剤を贈呈する」と語った。村人はほぼ指示されたとおりに、すべてに丸をつけたという。
村医者の洪増智さんは、そのことを聞いて驚いた。原発は稼働後も村人の身体にまったく影響を与えないという項目があり、その場で韓書記に反論したのだ。洪さんの行為は正しかったが、その後、洪さんは後悔することになる。
「村医者としての評価は最低となり、すべての役職を剥奪されてしまった」と肩を落とす。06年以降、政府からの圧力がひしひしと強まっていると感じているようだ。
江西省に造られる原発は江西省域内の長江のいちばん下流にある彭沢県内に位置する。このため、沿岸住民に影響は少ないというが、「長江沿いには22基の原発が造られ、江西省の上流にも建設される計画」と望江県裁判所の方光文・元裁判長は話す。
著名な原子力専門家の何祚シウさんも取材に応え、「昨年、彭沢県では例年にない干ばつに見舞われ、飲み水さえも不足した。そのような場所で原発を造ろうなんて、誰が考えたのだろうか」と首を傾げる。長江沿いであれば、必ず水があると思うのは幻想だ。
一方で、原発は粛々と造られていく。そのため、望江県政府は「江西省彭沢原発建設の停止に関する報告書」を安徽省政府に提出した。しかし、あまり動きがないのを見て、インターネットにその報告書を全文掲載した。が、それでもまったく反応はない。「もう訴訟するしかない」と方光文・元裁判長は言う。