波乱の「切り餅」裁判、サトウ食品はなぜ負けた
一般に特許訴訟は、被告の技術が原告の技術的範囲に属しているか否かを争う「属否論」と、原告の特許が有効か否かを争う「無効論」の二つの角度から審理することが多い。原告の特許出願よりも前に、誰かが同じ製品を販売していれば、原告の特許はあえなく無効になる。
サトウは一審で、「越後の特許出願の10日前から約1カ月間、イトーヨーカドー向け限定で、上下面十字プラスサイドスリット1本を加えた製品を発売していた。だから越後の特許は無効」と主張している。
これに対し、知財高裁は、その証拠として提出した餅が、当時製造した餅とはいえないとし、サトウの証拠偽造を疑う判断を中間判決で示した。サトウが証拠を偽造したという確信が、属否論に対する裁判官の判断に影響を与えた可能性は高い。
ライバル2社の社長が偽造疑惑覆す重大証言
裁判官がサトウの証拠偽造を確信する原因となったであろうファクトは複数ある。提出した証拠も証人も、外部ではなく説得力の面で劣る社内のものであるなど、一審の立証に稚拙さがあったこともその一つ。
一方、中間判決後に提出した大量の証拠の中には、切り餅で競合するたいまつ食品の樋口元剛代表ときむら食品の木村金也代表の陳述書もあり、双方とも「問題の餅を研究のために購入した際、すでに1本のサイドスリットが入っていた」とサトウを擁護。つまり問題の餅は実在したとしている。さらに樋口氏は「越後も当時、問題の餅を確認していたはず」とまで言及した。
「中間判決後に提出した証拠は、中間判決の判断を覆す重要な証拠であるにもかかわらず、時機に後れたという理由で排斥した。訴訟活動の巧拙を理由に真実に目をつぶったも同然だ」と矢嶋弁護士は憤る。