食の終焉 グローバル経済がもたらしたもうひとつの危機 ポール・ロバーツ著/神保哲生訳 ~複雑な利害・因果が絡む食の安全に鋭く切り込む
本書のテーマはズバリ「食の安全」である。米国で200人が感染したO157の発生(2006年)原因が、複合的関与(灌漑用水、農業排水、堆肥、野生のイノシシなど)によるものという事例紹介から始まり、「文明社会を崩壊させようとしているのも、食がもたらした構造である」と結ぶ本書は身近な「食」のあり方について、さまざまな問題提起をしている。
本書を読み解くキーワードは、「工業化された農業」に対する批判、鳥インフルエンザなどで危惧される「パンデミック」(感染症の大規模流行)に有効な対応策がないことへの注意喚起、地産地消を阻み食糧余剰と飢餓が同居する世界の「構造的問題」に対する人類への問いかけなどである。いずれも複雑な因果と利害関係を背景に明快な対策が打ち出しにくい領域だ。
あまり報道されていない事実や分析も多数紹介している。たとえば、次なる鳥インフルエンザの流行では「7000万人の死亡」や、「何兆ドルもの経済損失」をもたらすという予測(世界銀行)とか、チェリー味を添加するアルデヒド酸の味を人は自然の風味より好む、さらには、ホモエレクトス(現生人類の祖先)は肉食化によってアウストラロピテクスより頭蓋骨を3割以上発達させたなど。