食の終焉 グローバル経済がもたらしたもうひとつの危機 ポール・ロバーツ著/神保哲生訳 ~複雑な利害・因果が絡む食の安全に鋭く切り込む

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第6章でケニアの農民とのやり取りが記載されているが、これも衝撃的だ。雨季にもかかわらず降雨がないので著者が「そろそろ降るか」とたずねると、最初は「これだけ暑いと普通なら降るものだ」と答えた農民が、最後には「降らなければ飢餓を待つだけだ」とつぶやいたというのだ。

ネスレやマクドナルド、ウォルマートやカーギルなど食にかかわる大企業の罪も極めて重いと本書は厳しく糾弾する。併せて、「ワシントンコンセンサス」と呼ばれる、途上国経済を米国などの先進国の実質管理下に置く施策を生んだ歴史的経緯や、抗生剤の開発がウイルスを強化する連鎖(耐性獲得)などについても詳しく解説している。とかく大勢に踊らされ、食に関して流されがちな私たち一人ひとりにも大きな責任があることを自覚させられる。

それにしてもグリーンウォーター(雨水)に匹敵する「ブルーウォーター」(地下水)や、緑の革命(灌漑による農業革命)に対する新たな概念である「青の革命」(水産資源の有効活用)を従来から行っており、世界で存在感を発揮できるはずの日本が、いまだに収束していない原発事故のために本テーマに関して発言権がなくなっているのに歯がゆい思いを禁じ得ない。知的刺激度が高く、立ち止まって考え込ませる濃密な好著だ。

Paul Roberts
ジャーナリスト。ビジネスおよび環境に関する問題を長年取材し、経済、技術、環境の複雑な相互関係を追究している。このほかの邦訳書に『石油の終焉-生活が変わる、社会が変わる、国際関係が変わる』。米ワシントン州レブンワース在住。

ダイヤモンド社 2940円 541ページ

  

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