「子どもを産むつもりはなかった」女性が出産した理由とその後。2人の女性の経験談から見えてきたこととは。変わりゆく現代の家族像を追った

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2つ目は、実家に顔を出してすぐ父親と口論になり、5分で家を出てビジネスホテルに泊まったときの出来事。翌日、ホテルに訪ねてきた母と話すうち、母が周りから孫のことを尋ねられるのが嫌で、楽しみにしていた華道教室に行かなくなったことを知った。

「母をかわいそうと思ったときに、『私は何を恨んでいるんだろう』と考えたんです。家父長制度を再生産したくない、と頭で捉えてきたけれど、夫の実家のような家もある。実家と違う形の子育てができるかな、と思い始めたんです」

病院で検査を受けて妊娠可能とわかると、妊活をして2021年7月に妊娠。そこから夫婦で子育て情報を調べ、経験者に話を聞き、陥りがちな失敗や突発的なできごとへの対応策を練り、「お互いにオーナーシップを持って臨む」と約束する。

職場には1年育休を取ったのち復帰し、半年働いたあと転職した。夫も半年間育休を取り、その間、一緒に子育てするベースを築いていった。

オーナーシップ体制には、亡くなった義父を除く3人の親たちも参加。自分の父については心配したが、子どもの前では高圧的に振る舞わないので、車の運転を頼むようになった。通える距離に住む義母は週に1度、実の母もときどき来る。料理が得意な実母には料理を、掃除が得意な義母には掃除を手伝ってもらう。

おかげでHさんは月に1度の出張に行き、友人とも会えている。夫は好きなサッカーの試合に行き、義母も海外旅行をする。

「私は『誰かのために生きる』状態になりたくないし、家族にもそうなってほしくない。子育ても分割し、得意なことを得意な人がやれば楽しみにもなり、余裕が生まれると自分の子も『かわいい』と思えます」

しっかり研究したうえで徹底させた協力体制が、充実した今につながっているのだ。

「仕事優先」でも産んで良かった

45歳の会社員で1歳下の会社員の夫、2歳半の息子と暮らすTさんは、仕事の枷(かせ)になりそうな子育てをしたいとは思わなかった。しかし、夫が子どもを欲しいなら、その気持ちは尊重したいと考えていた。

35歳で結婚後、夫には折に触れ「どうしても欲しいなら、当事者という覚悟をして」と伝えてきた。Tさんが41歳になった頃、いざ欲しくなっても可能性がないと困る、と夫婦で不妊の検査を受けたところ、2人とも問題がなかった。

その直後、夫から「やっぱり子どもを育ててみたい」と言われた。Tさんも覚悟を決めて体外受精に臨み、2回目の挑戦で妊娠。

実家と折り合いがよくなかったTさんは、親に頼れば口出しもされると警戒していたが、「イタリアのゴッドマザーみたいな義母」のもとで育った夫は、自分の実家の近所に引っ越そうと言っていた。

中学生と小学生の子どもがいてフルタイム勤務の義姉、小学生から保育園生まで3人の子がいる時短勤務の義妹は、徒歩圏内に住む義母によく子どもを預けており、義実家が保育園のようになっていた。10年で義実家に馴染んできたTさんは夫の意向を受け入れ、近くへ転居する。

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