田村:私は現在、シンガポール国立大学リー・クワンユー公共政策大学院で、日本のビジネスリーダーに向けた「アジア地政学プログラム」を運営しています。私自身、シンガポールに移住した目的の一つは、そうしたエグゼクティブ・エデュケーションを行うことでした。
当初、大学側からはシンガポールの政治家や政府の人材に向けて、「日本の政治や外交について講義をしてほしい」と言われていたのですが、私は地政学の知見はビジネスマンにこそ生きてくると考えていたので、ビジネスリーダーに向けたプログラムにしたいと大学を説得して始めました。
窪田:日本のビジネスリーダーたちが東南アジアを理解するための場にしたいと。
田村:そうです。東南アジアを深く理解できれば、ビジネスで無駄に失敗しなくてすみます。それに、東南アジア各国でどんな政治が行われていて、どんな経済の課題があるのか、情報を欲しがっているビジネスマンはたくさんいます。ただ、はじめはそうした東南アジア進出を支援するようなプログラムだったのですが、徐々にその内容を変えていきました。
短期的に成功するためのコンサルティングのようなやり方ではなく、時代の変化の中でどうやってピンチをチャンスに変えていくか。歴史や外交や政治を学ぶなかで、変化していく世界でピンチをどう切り抜ければよいのかを教えています。それが、今回の本の内容につながっています。
大学で終わりではない。成長し続けるための「学び」
窪田:「アジア地政学プログラム」は、これまで何人くらい受講されているのですか?
田村:2014年にスタートしてから25回開催し、600人を超える修了生がいます。シンガポール国立大学では、最大の顧客が社会人なんです。社会人が学びに行くのが当たり前。シンガポール政府では、生涯教育が当たり前になっています。政府が官僚に時間とお金を与え、年間130時間、新卒から事務次官クラスまで、国内外で研修を受けられる仕組みができています。研修先として私がいるリー・クワンユー公共政策大学院も人気です。