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トランプ大統領を苛立たせる習近平「最強カード」レアアース。戦略を組み立てる中国「国家発展改革委員会」の正体と、問われる日本産業界の覚悟

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レアアースについてはアメリカも中国に依存せざるをえない状況だ(写真/The New York Times)

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米中対立が再び激化している。トランプ大統領は10月10日、中国に100%の追加関税をかけると宣言した。きっかけは、その直前に中国が発表したレアアースの輸出規制だ。中国商務省は10月9日、輸出許可の取得を義務付けるレアアースの対称を拡大し、採掘や精錬、磁石材料の製造に必要な技術の輸出管理を厳格化する方針を発表。これにトランプ氏が反発した格好だ。
外交交渉で中国が「レアアース」カードを切る頻度が増えている。今春には、トランプ大統領が高関税をかけたことに反発し、ジスプロシウムやサマリウム、イットリウムなど7種の中・重希土類の輸出に制限をかけた。トランプ氏の強気の態度は一変し、関税引き下げに動いた。
レアアースとは、鉱物から抽出されるレアメタル(希少金属)の中でも、よりレア(Rare=希少)なアース(Earth=土壌)からなる希土類元素17種類を指す。優れた化学的特性を持つことからPCやスマホ、EV、ハイテク家電、産業ロボット、航空機といった先端産業に使われている。
トランプ氏がレアアースを気にするのは、F35戦闘機やミサイル開発などアメリカの防衛産業にレアアースは不可欠な重要素材だからだ。
レアアースは、いつから中国の「宝刀」になったのか。中国に依存する状態は、これからの世界に何をもたらすのか。エコノミストで、中国の政財界に精通している東京財団の研究員、柯隆さんに聞いた。

――中国が外交交渉で使う「レアアース」カードの威力を、どう見ていますか。

中国にとってレアアースはいまや最強の外交カードだ。習近平国家主席にとって、これに代わるカードはない。アメリカとの関税交渉でも、レアアースを最大限に活用している。

アメリカとの交渉で中国の最大の目的は関税を下げさせること。高関税は中国の輸出製造業を直撃している。2025年8月の対米輸出は前年同期比で33%も減少した。若年層失業率は18%を上回っている。このまま高関税が続けば中国の経済指標はさらに悪化するだろう。レアアースをカードに据え、何としてもアメリカに関税を下げさせようとしている。

――なぜ中国のレアアースカードは強いのでしょう。

中国は世界のレアアース鉱石生産量の7割を握っている。製錬については9割超だ。他国がレアアース鉱石を採掘しても、それを使うためには中国に輸出して製錬しなければならない。中国がサプライチェーンの要を握るこの構造こそが、先進国が中国に依存せざるをえない状況を生み出している。

レアアースの重要性に気づいたのはここ20~30年

――この構造は、何十年も前から中国が戦略的に築いてきたものなのでしょうか。

必ずしもそうではない。中国がレアアースの重要性に気づき、生産に本腰を入れ出したのはここ20~30年のことだ。

私は25年前、内モンゴル自治区の包頭市にある希土(レアアース)研究院を訪れたことがある。中国最大のレアアース生産拠点だが、当時の研究院はまだ牧歌的だった。鉢植えが並び、ナスやトマトが栽培されていた。希土類がハイテク産業に活かせることは知りつつも、確固たるレシピ(加工法)を確立できていなかったのだ。だから研究院では、希土類を農業に役立てようと試みていたようだった。今では考えられない話だ。

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