トランプ大統領を苛立たせる習近平「最強カード」レアアース。戦略を組み立てる中国「国家発展改革委員会」の正体と、問われる日本産業界の覚悟

――中国が外交交渉で使う「レアアース」カードの威力を、どう見ていますか。
中国にとってレアアースはいまや最強の外交カードだ。習近平国家主席にとって、これに代わるカードはない。アメリカとの関税交渉でも、レアアースを最大限に活用している。
アメリカとの交渉で中国の最大の目的は関税を下げさせること。高関税は中国の輸出製造業を直撃している。2025年8月の対米輸出は前年同期比で33%も減少した。若年層失業率は18%を上回っている。このまま高関税が続けば中国の経済指標はさらに悪化するだろう。レアアースをカードに据え、何としてもアメリカに関税を下げさせようとしている。
――なぜ中国のレアアースカードは強いのでしょう。
中国は世界のレアアース鉱石生産量の7割を握っている。製錬については9割超だ。他国がレアアース鉱石を採掘しても、それを使うためには中国に輸出して製錬しなければならない。中国がサプライチェーンの要を握るこの構造こそが、先進国が中国に依存せざるをえない状況を生み出している。
レアアースの重要性に気づいたのはここ20~30年
――この構造は、何十年も前から中国が戦略的に築いてきたものなのでしょうか。
必ずしもそうではない。中国がレアアースの重要性に気づき、生産に本腰を入れ出したのはここ20~30年のことだ。
私は25年前、内モンゴル自治区の包頭市にある希土(レアアース)研究院を訪れたことがある。中国最大のレアアース生産拠点だが、当時の研究院はまだ牧歌的だった。鉢植えが並び、ナスやトマトが栽培されていた。希土類がハイテク産業に活かせることは知りつつも、確固たるレシピ(加工法)を確立できていなかったのだ。だから研究院では、希土類を農業に役立てようと試みていたようだった。今では考えられない話だ。