AV男優は、きわめて専門性の高い職業である プロは日本に数十人程度しかいない!

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AV女優のギャランティの低下が叫ばれる一方、彼女たちの就業の動機はいまだに金銭的な理由のイメージが強いが、AV男優となるとそこは微妙だ。ギャランティは彼のような「大御所」でも5万円程度、若手では1万~2万円とも言われる。毎日現場を掛け持ちすれば食うのに困る額ではないし、人気男優となればそれなりの高収入ではあるが、フリーで現場を行き来し、何の保障もない状態ではたらく彼らにとって、職業選択のインセンティブになるほど高額とも言えない。例えば米国のように、億円単位で稼いでいるようなスター男優は、日本には存在しない。

 彼らの仕事は専門性が高い

AV女優が生理の時は、彼らが海綿スポンジを詰めてあげたり、撮影後に取り出してあげたりする。プレイ中に膣内が痛くなればローションを使ったり擬似プレイに差し替えたりと機転をきかせる。撮影が始まったら勃起し、撮れ高が十分になれば射精する。カメラアングルを意識して体位を変え、あらゆる体勢で挿入し、女優の身体をカメラに向けて調節する。彼らの仕事はハードで、専門性が高く、また身体的特性も必要とされる。

しかしそもそもアダルトビデオは圧倒的に男性のみに向けて作られた娯楽作品であり、しかも視聴者の性処理にダイレクトに訴えかける作品であるため、あくまで主役、視聴者が視線を向けるのはAV女優である。かといって、彼らに裏方の美学を求めるのも難しい。専業の監督やカメラマン、照明技師やヘアメイクの担当者に比べて、AV男優はあくまで表に顔を出し、声を出し、性器までも出すのが仕事であり、VTR内では強い存在感を示す。表に出ながら、主役になることはない。Nに、「お仕事大変ですよね、どうして続けているんですか?」と私が聞いたところ、「人数が少ないからやめられない」とそっけなく返された。

そっけないながらも、彼の言葉はどうやら真実でもある。彼らの仕事哲学の一端はその希少性にあるらしい。名の知れたAV男優は何人か、世間的に名は知れていなくとも日常的に仕事をしているAV男優をいれても数十人、AV女優の数に比べてその人数は圧倒的に少ない。分かりやすいアイコンとして世間に認知されていながら、日本に数十人しかいない存在、視聴者からは名前は知られなくともチラチラと見え隠れし、時に2ちゃんねるやSNSでその名前や作品名で批評されることもある。

人数の少なさ故に多くの作品に出演する彼らは、自分のキャラクターが世間に広く認知されることもある。続けていけば、こういった作品のこういった役柄なら彼、と業界内で認識が共有され、立ち位置が決まる。何万人とも言われるAV女優のそれに比べて、AV男優が業界内や世間で居場所を見つける難易度は低い。

色黒マッチョ男優とは一線を画しながら、業界での需要が多いのがいわゆる「キモメン」男優である。清純なAV女優に近づき、ツバを垂らして舐めまわし、汚らしく犯す。美女が際立ち、美女にいたずらしたい視聴者の欲望をくすぐる。「キモメン」として売れっ子だったYは、普段はとても清潔で好感度の高いオジサンだった。ブランド物のシャツで現場に現れ、白くてオタクっぽいブリーフに着替えると目をぎょろぎょろさせてカメラの前に立つ。彼とはスタッフもまじえて雑談をするような仲だったが、彼がよく言っていた「需要に合わせる」という言葉が印象的である。

鈴木涼美(すずき すずみ)/作家。2009年に東京大学大学院学際情報学府修士課程を修了。2014年に5年間勤めた新聞社を退社。同年、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』を刊行した。

 

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