"古い建物好き"を唸らせる名建築、どう後世に残していくか。東京・中野《三岸家住宅アトリエ》孫娘が託した継承者、共に描く再生の道

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だが、実際に残すための活動はこれからがスタートだ。というのはカーサ・ビアンカ、アトリエともに当初見込んでいたよりも多額の改修費がかかりそうなのだ。

カーサ・ビアンカは3階建てでわずか5部屋の小規模物件。そのまま改修しても賃料はそれほどあげられない。デザイン性の高い物件にすることでなんとかできないか、検討が始まっている。

カーサ・ビアンカ
「カーサ・ビアンカ」の個性的な部屋(写真:©三岸アトリエ 撮影/千葉正人)

文化財を残していく難しさ

そして、アトリエ。同社にとって木造の耐震補強は初めてのうえ、アトリエは登録有形文化財である。特に外観の変更に関しては一定の要件もある。

それにそもそも、アトリエは最初から大きな問題を抱えていたと改修の設計を手掛ける建築継承研究所の樋口智久さん。

裏側の階段
アトリエ裏側の階段。このあたりを見ていると木造だということがよく分かる(写真:©三岸アトリエ 撮影/千葉正人)
2階
アトリエの裏手になる2階部分(写真:©三岸アトリエ 撮影/千葉正人)

「もともとの建物の特徴は南東面に設けた天井までの全面ガラス窓に2階が浮いて見えるような造り。

ドイツなら鉄骨造で造ったでしょうが、日本ではコストがかかりすぎて無理。そこで木造で造ったのですが、ガラス窓のマリオン(窓やカーテンウォールを縦に分割、横架材を支える)が構造体となって2階の床を受けていました。

荷重を支える力がない部材にその役割を担わせていたわけで、この建物にはそうした形にこだわったための無理が多く、それが雨漏りや歪みその他不具合に繋がっています。それをなんとかしようということで増改築が繰り返されてもおり、問題をさらに複雑にしています」(樋口さん)

竣工当時のアトリエ内部。2層吹き抜けの開放的な空間は今も変わらない(写真:撮影/清水襄写真事務所 山本愛子さん提供)
竣工当時の様子
現在は応接室が増築され、失われてしまった玄関前のスペース。当時は今よりも目立っており、豆腐のようだと言われていたとか(写真:撮影/清水襄写真事務所 山本愛子さん提供)

解体して新たに建て直す以上の、当初考えていたよりはるかに費用がかかるとあって片山さんは今、頭を抱えている状態。

といっても直さなくてはいけない。稼いでくれるのはアトリエだからだ。

玄関の窓ガラス部分
玄関の窓ガラス部分。凝った造り(写真:©三岸アトリエ 撮影/千葉正人)
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