「オルカン買う人は出世できない説」 FPがあの論争を見て感じたこと 出世はともかく、オルカンをそもそもどれだけ理解できているのか

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どちらも正解と言いたいところですが、前述のとおり、オルカンにたどり着くまでの道のりが異なります。また、オルカンは投資目標を達成するためのツールであり、手段です。オルカンにたどり着くことはゴールではありません。黎明期の方々はオルカンを効果的なツールのひとつと捉え、後追いの方々の多くは「オルカンを買ったこと」「オルカンがゴール」になっている印象です。

今後も、株式市況や世界経済のパワーバランスの変化、株式指数の進化は続きます。オルカンが代表的な株式指数として生き残ることができるかどうかはわかりません。オルカンを「自らの研究と検証の結果」として選んだ人たちは、よりよい成果が出せる商品群が出たときに、オルカンに別れを告げて新しい投資先を開拓するでしょう。

一方で、ネット記事やインフルエンサーを頼りにしてきた人は、オルカンの優位性が衰えてきたとき、低迷するオルカンと一蓮托生になるか、オルカンに替わる商品群を見つけることができるでしょうか。

オルカンに弱点はあるのか

さて、いずれにせよ大人気であることに変わりはないオルカンですが、弱点はあるのでしょうか。

私はひとつあるとすれば、オルカンの運用成果において、市場ごとの貢献度合いが見えづらい点にあると考えます。どういうことか説明します。

オルカンは、MSCIの株式指数のうち、先進国が対象となるMSCIワールド、新興国が対象となるMSCIエマージング・マーケッツを程よく混ぜ合わせた商品だと認識しています。

オルカンの1年間のリターンが10%だった場合、先進国と新興国の貢献度がそれぞれ何%ずつなのかはわかりません。貢献度がわかれば、今後MSCIワールドを中心に投資する方がいいのか、MSCI新興国に投資した方がいいのかの判断がつきやすいのですが。

株式市場の下落時においても同様に、先進国と新興国のどちらの影響が大きいのか、指数を分けておくと比較ができ、評価しやすくなります。

より良い選択肢を望む人にとって、オルカンの弱点は解像度の低さであり、それだと発展性がないということも言えます。

オルカンの「次」の選択肢

アメリカ株式指数の場合は、S&P500以外にも多くの商品が運用されています。投資先が10社、100社、2000社など、これを株式指数の進化と表現します。

オルカンの採用銘柄が2000社を超えて、相当数の銘柄分散が実現できている一方で、銘柄数が多すぎてリターンが小さくなっている可能性があります。

例えば、全世界株式500、全世界株式100のような商品が出てきた場合、銘柄数の少なさから、オルカンよりも利回りが高くなる可能性が高そうです(その代わり価格変動リスクも大きくなります)。

積立投資を通じて、投資に慣れてくると一定数の人はより高いリターンを求めて別の商品群に投資する可能性があります。オルカンを見つけ出したイノベーター、アーリーアダプターはポストオルカンに投資し始めているとすると、よくわからないままオルカンに投資している人たちは、相対的に低いリターンに甘んじる可能性があります。

もちろん、何もしないより格段にいいのです。ただ私は「よくわからないまま投資していて不安」な状態の方からの相談を一定数受けているので、投資銘柄のメンテナンスができない方々の先行きが不安です。

ふと、テレビで「ある食品」が健康にいいと放送されて、健康の「何にいいのか」わからず買って食べるケースを思い浮かべました。自分の目指す健康と、その食品で達成される健康が同じであれば、いいのですが、まれなことかもしれません。

投資においても同じことが言えます。将来の何らかの目的や目標があり、その達成に向けた切り口として「資産運用」があります。老後のお金を貯めたいなら、収入を増やす「副業」「転職」「雇用延長」「再雇用」、支出を減らす「節約」「保険見直し」「住宅ローン見直し」など、いずれも数ある選択肢のひとつにすぎません。

資産運用の目的が老後の安心であるとすれば、オルカンのような株式投資信託を用いて積立を行うことは理にかなっていると思います。一方で、価格変動リスクがそれなりに大きいオルカンで、教育資金のように特定の時期にまとまった支出が確定するようなライフイベントの準備をしようと思うと、相場の下落が直撃したときに「こんなはずじゃなかった」が生じてしまう可能性があります。

プロがオルカンをあまりやらない理由

さて、そんなオルカンですが、投資のプロはどう付き合っているでしょうか。

プロには①ファンドの運用者である(人のお金を運用)、②自分自身のお金を運用している、という2つがありえます。

① のファンドの運用者は、自己資金での投資が制限されていると思います。もし投資信託であれば投資が許容されている場合であっても、自前の商品より他社が優れているということもないでしょうから、他社のオルカンには投資しないでしょう。

ただ、運用に従事するような立場の人は、自分の投資においては倫理的にも法律的にも規制がかかっているため、そもそもどのような投資をしているのか、調べようがありません。政治家のようにファンドマネージャーの投資銘柄が開示される世の中になれば面白いですね。

② 自分自身のお金を運用する投資家の方であれば、オルカンの期待リターンが低すぎて、買う気にならないだろうと思います。期待利回りが低いと、投資家の目標に到達しないので、主要な株式指数の中でも期待リターンが相対的に小さいオルカンに投資する意味がない、という判断でしょう。

最後に、「オルカンを買う人は出世できない」という例の話に戻ります。出世うんぬんを気にする必要はないのですが、一方で自分の人生を上手に経営するのに、頼りにする金融商品のことを知らなさすぎるのはちょっと不用心であるかとは思います。

これからオルカンを買いたい人は、「人が勧めるから」だけでなく、「どんな点に惹かれたか」「どんなメリットがあるのか」「どんなデメリットがあるのか」「他に選択肢はないのか」について、「熟慮のうえでのオルカン」になると、後々後悔することを避けられると思います。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

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高橋 成壽 ファイナンシャルプランナー

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たかはし なるひさ / Naruhisa Takahashi

寿FPコンサルティング株式会社代表取締役。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、金融系のキャリアを経てFPとして独立。お金を増やす、お金を守るという視点でFPサービスを提供。30代40代の財産形成、50代60代の資産運用、70代以降の相続対策まで幅広い世代に頼られている。「ライフプランの窓口」を企画運営。著者に『ダンナの遺産を子どもに相続させないで』(廣済堂出版)がある。日本FP協会認定CFP。

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