「イノベーション」という言葉は死語にすべき 「内田樹×白井聡」緊急トークイベント<前編>

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10月5日に行われた、内田樹×白井聡の緊急トークイベントの様子をご紹介する
憲法学者たちの違憲見解と多くの国民の反対を押し切り、安全保障関連法案が採決された。安保法案に先立ち、今年6月には文部科学相より国立大学法人に対し、人文社会科学系学部の廃止、社会的要請の高い分野への転換を促す通知が送り付けられ、多方面で議論を巻き起こしている。
日本は今、「移行期的混乱」のうちにあるとの見方がある。停滞する経済、メディアと教育へ伸びる政治支配、医療、年金制度、雇用制度、あらゆる仕組みが制度疲労で瓦解の危機に瀕している。このような状況を生き延びるためのノウハウは、どこにも存在しない。答えが見当たらないこの窮地を突破し、新たな未来を切り開くこと。それこそが、「人文学」という学問に与えられた大いなる課題といえるだろう。
ベストセラー『日本戦後史論』(徳間書店)で話題をさらった思想家・内田樹と政治学者・白井聡が、人文学の持つ可能性を問い直す。10月5日、京都精華大学にて開催されたトークイベントの様子を前後編でリポートする。

危機の共通の基盤のようなものがある

白井:今日は「危機の時代に人文学を再び考える」というテーマで、内田樹先生を迎えてお話をする機会をいただきました。

今日、このような機会を設けたのは、次のような考えに基づいてのことです。新安保法制が通ったことで、「日本が戦争をすることにつながっていくんじゃないか」という危機感が高まっていることが一方にあり、他方、われわれの職場である大学において、安倍政権になってから、「大学改革」と通称される動きが加速していて、それにより大学で学問の危機ともいうべき状態が進行しています。この2つの現象は無関係ではないと私は考えます。たぶんそこには、危機の共通の基盤のようなものがある。それが何であるのかを話し合えたらと思っています。

内田:行政による大学の解体は、1991年の設置基準大綱から四半世紀にわたって進行してきたものです。その中で僕が感じたのは、大学も含めて学校制度が全体として、株式会社化しているということです。

トップに権限を集中して、教授会には人事権も予算配分権も与えない。終身雇用もやめ、基本的に任期制にする。勤務考課を細かく行い、単年度の業績によって査定し、それに基づいて教育資源の配分を決める。大学の経営や教育の方針は、変化するマーケットのニーズに応じて変えていく。そういう発想です。

「マーケットの要請に応える教育している学校は生き延びて、応えることのできない学校は淘汰される。結果的に最良の教育を最低のコストで実現できた学校だけが生き延びる。それがいちばん合理的である」という発想に、たぶん多くの人が同意している。今、この会場においでのみなさんも半数ぐらいは、「なんでそれがいけないんだ?」と思っているでしょう。

しかし、それは根本的なことを勘違いしているということです。

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