「12日間戦争」「ひとつの大きな美しい予算」…あまりに絶妙すぎる「トランプ大統領ネーミング術」の謎を解く

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ちなみにテスラのイーロン・マスクCEOが率いたDOGE(政府効率化省)は、当初、2兆ドルの予算を減らすと威勢が良かったが、対外援助の停止と政府職員の解雇では1750億ドルの節減が関の山であった。マスク氏はすでにトランプ大統領と喧嘩別れしてしまったが、騒ぎの割に成果は乏しかったと言えそうだ。

結局、議会予算局による中立的な推計によれば、このOBBB法案によって財政赤字は向こう10年間で2.4兆ドル増加する。それを嫌気してか、このところ10年物米国債の利回りは4%台半ばと高めに推移している。政府債務の返済額が増加することになるので、米国財政はますます悪化しそうである。確かに”Big”な予算ではあるが、”Beautiful”であるかどうかは疑問が残る。

そこで今回の予算案は、「債務上限を5兆ドル引き上げる」条項を盛り込んだ。すでに米国債の発行残高が上限の36兆ドルに達しているので、これは必要なところ。8月にも政府資金がショートするとの観測があったので、金庫番のベッセント財務長官はホッとしていることだろう。財政保守派が反対する項目なので、他の項目と一緒にして通すことができた。ここは是非、”One”でなければならなかった。

粗暴なようで、実は考えられているトランプ政治

今回の予算成立には「財政調整措置」(リコンシリエーション)という制度が使われた。共和党議員がそろって賛成すれば、きわどい票差で予算は通る。ただし野党の意見を取り入れたり、法案を修正したりする余地はない。この英単語の元々の意味は「和解」でも、実際には与野党が敵対的になる仕組みである。

トランプ大統領の初年度であった2017年は、この「リコンシリエーション」を使ってオバマケアを廃止に持ち込もうとしたが、最後の瞬間に共和党のジョン・マケイン上院議員が反対に回って思惑は崩れた。トランプ大統領としては、今回のOBBB法案はそのときの捲土重来を期す思いもあることだろう。

トランプ支持者たちにとっては、こういう単純明快さが好ましい。従来のワシントンは決定に時間がかかり、議員たちの妥協が横行する不透明な世界であった。トランプ大統領はそこへ乗り込み、孤軍奮闘するヒーローなのである。

一見、粗暴なようで、実はよく考えられているのがトランプ政治である。ネーミングひとつとっても意外に芸が細かい。おわかりいただけただろうか?(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

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