「こんな普通の田舎料理が」と批判されたが…。過疎の無人駅で売れ続ける「名物駅弁」。心無い声にもめげず《九州駅弁グランプリ》4冠の舞台裏

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炊き込みごはんに、タケノコとシイタケの煮物、サツマイモのガネ、タケノコとシイタケのコロッケ、煮物、酢の物など、どれも丁寧に手作りされた素朴な郷土料理だ。

地元生産者・松下実雄さんが原木栽培したしいたけが、このお弁当の印象を形作る。香りがよく肉厚なしいたけで作った煮物は、かみしめるほどに味わい深い。炊き込みご飯の味付けは薄めにしてあるため、しっかり濃い味の煮物とご飯のバランスが絶妙だ。

しいたけ
しいたけの存在感が大きい(筆者撮影)

味のバランスは、以前試食してもらったアナウンサーからの「鹿児島の人は濃い味が好きだけど、駅弁は県外の人も食べるから少し薄めの味付けにした方がいいかも」という助言をもとに調整したという。

松下さんのしいたけはこの駅弁に使われたことでブランド価値が高まり、今や地元の老舗デパート山形屋とも取引している。一方まゆみさんも「松下さんのしいたけがあってこその弁当」と力説する。

素材の味を生かすため、お弁当作りに使う調味料は砂糖、みりん、酒、しょうゆ、塩とシンプル。だからこそ野菜のおいしさ、力強さを感じる。

ガネ
鹿児島の郷土料理の代表格・ガネ。サツマイモの細切りを粉と合わせて揚げる。作り方は地域、人によってさまざまだが、水を一切使わずに作るのがまゆみさんのやり方。サツマイモ、ニンジン、ニラを切り、卵と砂糖、醤油、塩を混ぜておくと野菜の水分が出てくるので、そこに小麦粉を絡めてから油で揚げている(筆者撮影)

ガネの作り方は地域の人から教えてもらった。「一昔前は、お葬式があるときはご近所さんたちが煮しめやガネ、酢の物を作たりと手伝いをしていたんです。そこで教えてもらった味です」とまゆみさん。

ダイコンとニンジンのなますは「シャキシャキ感を出すために」と、よく研いだ包丁で切って作るのがこだわり。スライサーだと繊維がつぶれてべちゃっとしてしまうそう。包丁を研ぐのは夫・文昭さんの役割。

すべての味のさじ加減、調理センスが絶妙である。味の試行錯誤や技術が、この弁当を素朴な懐かしい郷土料理にとどまらせずに、遠くからでもわざわざ買いに来たい、洗練されたごちそうに押し上げているのだと思う。2025年の九州駅弁グランプリでも「田舎料理がこんなにご馳走なんだと気付かせてくれました」と評されている。

駅弁を作り始めた経緯 

「百年の旅物語かれい川」の駅弁が誕生したのは、今から21年前2004年に遡る。

2004年3月13日、九州新幹線の部分開業に合わせて観光列車「はやとの風」が運航を開始したため、地元で沿線の嘉例川駅で販売する弁当が募集された。

そこで当時、総菜の移動販売をしていた山田さんにも声がかかり、コンペに参加することに。

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