清水:実際に乗ってみると非常に上手なドライバーが運転しているなと感じました。ゆるいS字カーブではハンドルの切り始めなど、横揺れが少ないハンドルさばきでしたね。その一方、となりの車線に大型トレーラーがいても、同じ車幅距離で走るので、すこしトレーラーが気になりました。となりに車が大きいと人間はストレスを感じますよね。いつもより幅の間隔を取るとか、自動運転ではそうした判断ができないのですか?
鯉渕:それはもちろん可能です。人は気持ちよく安全に走れるよう、いろんな要素を複合的に判断して速度やコースを選んでいます。大型車両とは離れたいといったシンプルな判断もありますが、簡単にはプログラミング化できないものも少なくありません。欧米に多いランドアバウト(環状交差点)の走行などもその一つです。
こうした分野は人工知能の領域になるため、今後の研究が必須。トヨタも、日米欧の大学機関と研究を推進中です。また、一般道を考えたときには、予測を含めた賢い判断、さらには初めて遭遇するシチュエーションでも何とか安全に切り抜けるといった能力も必要になるでしょう。そこまでいけば、自ら学習しながら賢くなっていくということも可能かもしれません。
セカンドタスクを“安全”にできるか?
清水:なるほど。AIが不可欠になりそうですね。ところでセカンドタスクはやらせた方が眠くならないのでは?
鯉渕:それはありうると思います。ただし、運転に向ける注意力とのトレードオフになる可能性もあるため、慎重な議論が必要です。一方で、スマートフォンが生活の一部となっている人たちなどは、許可・禁止に関わらず、走行中に使ってしまうという話もあり、どうすれば安全にセカンドタスクができるのかという発想の転換も必要かもしれません。
さらに、セカンドタスクにもスマートフォン操作のようなアクティブなタスクと、TVを見るといったパッシブなタスクがあり、運転行動に与える影響は違うと思います。
商用車では欧州のメーカーが長距離トラックの自動走行実現を考えているようです。追い越しなどはなく、レーンをキープしてまっすぐ走るだけですが、その間にドライバーが在庫管理などの「会社の仕事」をセカンドタスクとしてできるようにする。人件費、事故率、ドライバーの健康管理などを考えると、そのほうが交通システムとして安全で、コストも安くつくといった可能性があり、実現すれば物流に大きな変革をもたらすと思います。
清水:スマホ族はクルマのなかでも繋がっていたいはずですね。
鯉渕:ヘッドアップディスプレイや音声認識等の技術で、運転への注意力を落とさずにできるようにすることが必要ではないかと思います。そういったことを検討するために、今後ますますヒューマンファクターの研究や、人とクルマの協調技術が重要になってくるのではないでしょうか。
清水:人間はミスをする。機械もミスをする。この認識をいかにユーザーに説明しますか?
鯉渕:実際の交通環境は、皆でリスクと責任をシェアすることにより成り立っており、技術だけで100%を保証することは難しい。例えば99.9%はより安全・便利に使えるが、0.1%は事故が起きるかもしれない。そういった自動運転のメリットとリスクを社会的に共有した上で、交通システムの中にどう位置づけるかを議論する必要があると思います。
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